オリジナル。登山、微百合、日常でぐだぐだ。
話が……進まぬ。
MHF。
報酬ブーストが美味くて黒レイアきてる今週はSR帯にいたほうが得だとわかっていたけれど、なんか上がりたくなったのでついにG級へ。G秘伝書ヘビィしかない。所持している課金防具を強化したら一気に防御力上がって爆笑。
GGの新モンス、ディオレックス公開されましたね。名前聞いたときにはついにティガ×ブラキディオスが合体したのかと思ったけれど、詳細を見て納得。レビディオラやルコディオラのディオだったか。ちょうど本家のキティと対になる色合い。
ティガ×ディオラ……これは公式が最王手ですね(錯乱
ネット・ゲーム特有の長時間連戦。極低確率のドロップ・アイテム狙い。集中を超えて没頭の領域に突入し、思いっ切り濃くしたコーヒーを啜りながら、椿希はパソコンに見入っている。コントローラーを握る手は機械めいて動き、精密かつ怠惰に続く。そうした単純作業は嫌いではなかった。幼い頃から護身術の練習はいつもそうしてきた。肉体に反射動作を植えつけるための不毛な稽古。
しかし、パーティ・メンバーのほうが先に音を上げる。チャット・ウィンドウにメッセージが表示される。
『出ねえ。すみません、落ちます』
椿希はキーボードを叩く。「お疲れ様……っと」
それを皮切りに次々とメンバーが落ちていき、椿希は溜息をつく。ソロでは非効率極まりない。レア・ドロップを諦め、練習がてらに別のクエストに向かう。そうしてさらに一時間。
深夜二時。眠気がこない。不眠症かしらね、と思ったとき、ショートメールが届く。入江桜花のアカウント。椿希はすぐさま個別チャットを開き、応答する。
『師匠?』
しかし、違う。『姉です。椿様』
『あらヒロエさん。こんな時間にご苦労様。師匠はおねむかしら? あなた、明日も早いんじゃなくて?』
『少しお話が』
「……」
直接話すよりも、気軽なところがあるのかもしれない。リアルでない箱のなか。
椿希は自分のプレイキャラである“椿”に話をさせる。
『あなた、どこまで知ってる?』
『父に聞いたことまでは』
『幹一さんのことは信頼してる。彼は身持ちが固かった。だからとばっちりを受けて、本家を追い出されたわけだけど』
『父は悔しそうでした。本家がそんな風になってしまったことで。彼女がやってきてから、たった一年間で、どうしようもないレベルに陥ってしまったと。それで、椿様まで』
『そのことはいいのよ。あれは彼らが望んだ破滅みたいなものだもの。幹一さんに伝えておいてくれる? ごめんなさいって』
『椿様が謝られることではありません。これからどうなさるおつもりですか』
椿希は唇に指を添え、少し考え、考えるまでもないことを告げる。
『正直、本家のことはどうでもいいのよ。ただあれでも私の実家だから、私がどうにかしないとって思うけど。彼女の思い通りにならなかったのは、残念ながら私だけ。本家の問題に、分家のあなたたちを巻き込むわけにもいかないし』
『椿様のお母様は』
『あのひとはねえ。言いたかないけど、劣等感の塊なのよ。自分の境遇を嘆いて自己憐憫に浸るだけで、救いようがない。私がなんとかしたいのは、彼女のほう』
『ですが』
『擦れてるのはわかってるわ。でも、子供の頃から恨み辛みを延々と注ぎ込まれれば、さすがの私も真っ直ぐには育てないわよ』
『よろしいのですか』
『ええ。もう少し落ち着いたら、一度本家に戻ってみるわ。愛莉さんに何度か電話してるけど、最近は出てもくれない。せめてもうちょっとだけ、電話越しに話せたらいいんだけど』
氷月は眉を潜めて言う。「葛葉おまえ最近なにやってんだ?」
葛葉はにっこりして、「ちょっと人生における新たなチャレンジを」
「あーそう。いいんだけどさ。バスケ部の助っ人、大丈夫なんだろうな? なかなか練習にきてくれないし、たまにきてもメチャクチャ疲れてるじゃないか。おまえがいないと試合だってできないんだから」
「いざとなったらサッカー部の柊さんに頼んでよ。私だってね、いろいろ忙しいの」
「あいつはなあ。なんか苦手なんだよ。彼氏持ちのクセして、隙がありゃやたらと渓にスキンシップしてやがるし、ワケわかんないことでからかわれるし……」
「あんたがいつまで経っても根岸さんとはっきりしないのが悪い」
「はっきりってなんだよ」
わかってるクセに。そう言う葛葉を、氷月は忌々しそうに睨みつける。
「ああ、そうそう。姫川さんは最近どう? 練習は真面目にやってるみたいだけど、相変わらず不登校気味みたいだし。今日も、きてないんだって?」
「鵠沼に勉強教えてるくらいだから、差し当たっては問題ないと思うんだけどな。なんかとんでもないことしでかしそうで、怖いっつったら怖い。でもいまだにちょっと信じられねえな。普通に話してる限り、姫川は不良っていうより、真面目すぎるくらいの女だってのに。不登校とか……」
「まあ人間いろいろあるって。たまたま、学校って場が姫川さんに合わなかった。それだけじゃない?」
「あいつ、山じゃどんな顔してるんだろうな」
「楽しんでるみたいだよ? 櫛灘さんの話を聞く限り」
「櫛灘さん。ね」
氷月は鼻を鳴らす。
真昼。日課のトレーニングを終え、天見は河川敷のベンチに座っている。携帯を弄り、ふと思い至ってグーグルの検索エンジンを探る。
仮に……弟だか妹だかができたとして。どんな風になるのか。それは想像もつかないことだった。十三年も歳の離れた年下の家族。しかし、なにを検索するというのか? 家族と仲良くする方法? 忌々しく感じ、溜息をつく。
「……名前」
ふとそんなことを思う。
気まぐれの気まぐれから、両親は子にどんな名をつけるのだろうと思ったりもする。自分が天見だから……天に対することば。『地』。仮に弟だったら、大地、みたいな名になったりするのだろうか。妹だったら? 地、のつく女性名を考えて、あまり見ないな、と思う。
地子? いや、あまりにも単純すぎるか。
検索。
それっぽい名前。ある。
「地月?……」
なかなか綺麗な名前だと思う。しかし、佐田部長と思いっきり被ってしまっている。勘弁してくれ。
首を振って立ち上がる。両親のセックスに遭遇してから、どうかしてる、と思う。思春期だろうがなんだろうが、性的なことにエネルギーを費やして自分を見失うようなことはしたくない。恋慕。そういうのは“普通の”女子がやればいいことだ。私の領域じゃない。
そういう風に気を取られていたから、気づけなかったのだろう。
眼のまえに椿希が突っ立っていて、首を傾げてこちらを見ていた。
「あら姫川さん」
「……こんにちは」
「学校は?」
舌打ちしかけた。不登校のことは、まだ椿希に言ったことはなかった。桐生家にバイトに行くのは、大抵部活の終わった時間帯で、想像もされてなかったに違いない。
天見は逆に問うた。「椿希さんは?……」
「私は散歩。徹夜でネットゲームしてたら、さすがに疲れちゃって。ああ、大学は休学してるのよ。言ってなかったかしら? 背中の傷――っていうか、実家のいざこざで」
「はあ」
「でも、たぶんこのまま退学することになるかもしれないわね。まあそれはいいのよ。姫川さんは」
「そろそろ帰らなくちゃならないんで……」
椿希に背中を向け、ぎこちなく歩き出した。しかし、椿希は案の定天見にぴたりとついてきた。
「開校記念日かなにか?」
「実はそうなんです」
「嘘が下手ね、あなた。付き合いの浅い私でもすぐにわかるわ。あなたのプライヴェートに踏み込むつもりはないけど、私には話せない?」
「……。あんまり自慢げに話せることじゃないんで」
椿希は唇に指を添え、なにかしら考えるような顔をした。少しのあいだ沈黙が互いのあいだを行き交う。
遠くから遮断機の甲高い音が聞こえてくる。
ぽつり、ぽつりと、細い雨が降ってくる。
天見も椿希も傘は持っていない。天見はジャージ姿で、濡れてもいい格好だが、椿希は古めかしい着物姿だった。バイト初日に、ダンボールをひっくり返して整理したとき、その柄には見覚えがある。それを着こなす女は、異様な感じがしたが、天見もさすがに他人の衣装に気を留めようとは思わない。
ややあって、椿希が歩きながら言う。「少し私のことを話そうかしら。もちろん、あんまり自慢げに話せることじゃないけど」
「……なぜ?」
「そうしたら、少しはあなたのことも話してくれる?」
「私のことなんかつまらないことこの上ないですけど」
「私もね。でも、あなたには興味があるのよ。そうでない女の子を雇ったりしようとは思わないわけだけれど、まあそれはいいわ。自分を、自分の意識にだけ留めておくのって、結構辛いのよ。ときどき、無性に誰かに打ち明けたいときがある。それはわかってくれる?」
「まあ……」
「ちょっとだけ付き合ってくれると嬉しいわ。鬱陶しいかしら?」
「正直に言うとそこそこ」
「それは残念ね。じゃあ、気まぐれな独り言だと思っておいて」
しかし、それは天見の流儀ではなかった。振り払うように言う。「だったら、私のことを先に話します」
「――そう?」
「つまらないことを先に済ますほうが気が楽だ。それだけです」
それで、天見は話し始める。
不登校の経緯について。いじめの主犯格といじめの被害者。教師の望む最高の雰囲気だったクラス。その裏側。自分の感じ続けてきたこと。『反転』。グーグルで拳の握り方を検索したこと。暴力について。なにもかもぶっ壊したあの日について。暴走したように止められなかった自分の衝動について。そうしたなかで隣のクラスの女子に他愛なく投げられ、嘔吐し、ようやく自分を取り戻したことについて。そこからの登校拒否。
山について。『自然に触れれば少しはマシな人間になるでしょ』という母親のことば。櫛灘空という女。『マシな人間』などという概念からは遥かにかけ離れたところで孤高にそびえていた穂高連峰。そこからの道のり。
そうした風に自分を語るのは、天見にとって初めての経験だった。空は母親に語られる事情を知っている。杏奈にはただそういうことがあったとだけ話した。葛葉は妹を通じてその事実を知っていた。想ったこと、感じたこと、すべてを一から紡ぐのは非常に骨が折れた。が、天見はできる限り正直に話した。思いがけず自分を見直す機会になり、自分のなかでなにかが崩れ、なにかが透き通るのを感じた。
「両親がセックスしてるところに帰ってきてしまった」と、最後に天見は言った。「ああ、あのひとたちは私の代わりが欲しいんだって思った。ゼロから子育てをやり直すつもりなんだって。そういうのも単なる僻みでしょうけど。ものすごくばかばかしいことに、私はついさっきまで、そうして生まれてくるかもしれない弟だか妹だかの名前まで考えてた。想像力ばっかり逞しくて厭になります。まあ、別にいいんですけど、そういうことって。
私ってこういう女です。椿希さんのほうが、厭になったんじゃないですかね」
椿希は反芻するように眼を細め、しばらくして言う。「話してくれて嬉しいわ。どうして話してくれる気になったのかしら」
「傷を見てしまったせいじゃないですかね。悪かったと思ってます。見ようとして見たわけじゃないにしても、そういうのって……」
「律儀ね」
「どうも」
天見は息をつく。
雨はどこまでもどこまでも柔く、細く、小さく、控えめで、傘もいらないほど弱々しい霧雨だった。視界は銀に近い白で埋まり、川面に浮かぶ波紋の重なりでようやく、雨が降っているとわかる程度のものでしかなかった。
この時季にしては肌寒く、冬の欠片が帰ってきたような外気だった。湿気と汗で、天見は少し震えた。風が不躾に吹くと、結んだ髪が緩く流れ、額から目許にかけて張りつく前髪を剥がさなければならなかった。
しばらくのあいだ、時が流れるに任せる。
椿希は眼を伏せて天見のことばをじっくりと消化していた。暴力を振るった娘。そこからの不登校。外側から見れば、絵に描いたように見事な不良女だった。あくまで、外側から判別すれば。とはいえ、椿希にしても、単純にそう判断できないところにいるくらいには、天見と接してはいた。実際、そのぶっきらぼうな態度や染めた髪の見目にかかわらず、仕事内容はいかにも真面目で、真摯だった。雇い主として見ればまったく不満の出る幕がない程度には。
最初から、学校ではなく、山の住人であれば、恐らく彼女はどこの誰にも文句のつけようのない少女だったのだろう。そういう風に感じた。孤独の世界で育っていれば。彼女に暴力を強要したのは学校という場であり、子供にとっての社会であり、一般的な価値観にとって絶対必要とされる義務の場だった。それに適応できない者は情け容赦なく切り捨てられる。堕とされる。そうした結論も、学校に適応した者にしてみれば『甘え』と断じられる類のものなのだろうが。
ようやく椿希は言った。「話してくれてありがとう」
「はあ」
「そういう風に話してくれるきっかけになったのなら、この傷もそう悪くないものかもしれないわ。まあ、あなたにとってはあまり望むことではなかったかもしれないけれど。いろいろと……考えてしまうわね。後悔はない? 暴力を振るってしまったことに対して」
「遠回りなきっかけだったにしろ、そうしなければ山を知ることもなかった。そう考えることにしてます」
「そう。前向きなのね」
椿希はふっと表情を緩めた。
そうして言う。
「私の背中に傷をつけたひと。父の愛人さんなんだけどね。まあ結論まですっ飛ばして言うと、いま、本家はまったく彼女に支配されてるかたちになってる」
天見は眼を眇めて椿希を見つめた。「支配……?」
「そういう言い方が正しいかどうかはちょっとわからないけど。父が彼女を連れてきたのが、一年と……二ヶ月まえ。びっくりするくらい綺麗なひとだったわ。顔やスタイルもそうだけど、雰囲気がね。凄味、っていうのかしら。向き合っていると、無条件に見下されて、怯んでしまうような。相手を萎縮させるタイプの美人。こっちの分家のお爺様はこう仰ってらしたわ。毒婦って。とても私の父の手に負えるような女じゃない、って」
「毒婦……」
天見は想像しようとしたが、できなかった。会ったことのないタイプの女だと思う。ときどき、山で、空のことを奔放な魔女のように感じる瞬間があるが、とても空を毒婦だとは思えない。
「そうね。女の私から見ても、途方もないひとのように見えたわ。破滅的なエネルギーに満ち溢れているように感じた。男女問わずそのエネルギーのなかに巻き込んで、徹底的に打ち壊して、自分のものにしてしまう……まあ、実際に見てみなければあまりわからないでしょうけど。
彼女は、桐生家にやってきてから、みるみる間に自分の影響力を拡大させた。妾にもかかわらず、正妻である私の母を押しやって、あらゆる決定ごとに口を出すようになった。親類たちの弱味を次々と把握して、弱味がなければ自分自身が弱味となって、気がついたときには、本家で彼女に逆らう人間はどんどん少なくなっていった。気にいらない人間がいると、周りに圧力をかけて追い出した。弘枝さんのお父様もそのひとりで、彼は代々桐生家で働いている庭師の筋なのだけれど、家族に誠実でありすぎたせいで、彼女の逆鱗に触れたの。彼女の誘いに彼は応じなかった。それで、一息。その事件そのものがますます彼女を増長させるきっかけになって、彼女が本家を乗っ取るのは時間の問題って感じになった」
「……」
「大抵の男が従ってしまうような魅力――いえ、凄味かしら。そういうのが彼女には備わっていた。あの家はもうどうしようもないほど古めかしすぎて、権力を握っていたのは私の父をはじめとしてほとんどが男性。そのせいもあって、あっという間だったわ。で、ただひとりの例外が私。当主の一人娘。私はなんというか、ほら、どちらかといえば」くすりと笑って――「我儘だから。父の言いつけだってまったく聞きやしない厄介者」
「笑ってもいいところですか?」
「ええ、どうぞ。
で、当然衝突が起こる。私と彼女のあいだで日増しに敵対が深まっていく。私が大人しく婿を取って、次期当主を迎えていれば、彼女はそのひとを自分の懐に誘い込んだだろうけれど、残念ながら私は当分そんな気はなかったのね。ていうか私が継ぐ気満々だったわ。彼女にしてみれば私は眼の上のたんこぶで、ただひとり思い通りにならない女が、よりにもよって桐生家の強者だった。最後の砦ってわけね」
椿希は手のひらを上に向け、悪戯っぽく唇を曲げてみせた。天見はその話がリアルなようにどうしても思えず、異世界を見るような眼を椿希に向けていた。
「でも勘違いしないでほしいのは、私、彼女のこと全然嫌いじゃなかったのよ。むしろ感嘆してた。だって、彼女はあれよあれよという間に本家を支配して、あらゆる障害を取り除いて、自分の目的に真っ直ぐに突き進んでみせたようなひとだったもの。驚嘆すべき女性だわ。古臭いあの家を一掃して、圧倒してみせた。私びっくりしたのよ? 女であることを武器に、って簡単に言うけど、そう容易いことじゃない。単純に、尊敬してさえいたわ。まあ私は我儘だから、天邪鬼を起こして、彼女に従おうとはしなかったわけだけど」
「それで、その傷……?」
「ええ。敵対関係に、限界がきた。彼女はとうとう、それまでの慎重な進撃をかなぐり捨てて、感情を暴発させてしまった。よく辛抱したものだとは思うけど、どれだけ辛抱しても、私をどうすることもできないってわかってしまったのね。で、ばさり。古臭い家で本物の刀なんかがあったのが運の尽きだったわ。その辺にあったんだもの」
椿希はそこで溜息をついた。
「けど、私がほんとうに気にしてるのは斬られたことじゃない。そのあとに私がしてしまったこと。さすがの私もね、初めてだったのよ、斬られたのは。それで大人しくなればよかったんだけど、実際に直面して、私のタガがはずれちゃったの」
一方の手で拳を握り、もう一方の手で拳を撫で、続けて言う。「反撃しちゃった。護身術なんてやってたから。自分がどんな顔をしてたのか、いまでも思い出せるわ。鏡に映ってたから。けだものみたいに笑いながら、彼女を殴りつけていたの。その顔を……それは、言ったわよね。で、大きな傷をつけてしまった」
椿希の指が自分の顔に触れ、右頬から鼻を抜け、左頬の端まで縫う。
「さすがに、本家にいることができなくなってしまってね。いったん頭を冷やそうと思って、こっちに居候してるの。でも、帰らなくちゃって思う。ぶっちゃけあの家は彼女に明け渡しても構わないんだけど」
「どうしたいんですか?」
「うん」椿希は叱られた子供のような顔をした。「仲直りしたいわ」
天見はむしろ噴き出してしまいそうになった。
「……なんか凄絶な話を聞いてたつもりだったんですけど。仲直り、ですか?」
「そうなのよ。でも残念ながら私、子供時代は友だちが少なくて、そうした経験って全然ないの。だから、途方に暮れちゃって。あなたは、そういう経験ってある?」
「自分を投げ飛ばしたやつと同じクラスで、同じ部活やってますけど、あんまり気にしてないです。鬱陶しいくらい付き纏ってくるやつだから、そう思うのかもしれないですけど。別にいいんじゃないですか? そうしたければ、そうすれば」
椿希は微笑んだ。「……そうね。そうかも」