オリジナル。ジャンルはごった煮。
そろそろこの章を終わらせたいなー(白目
MHFの日朝シクレ待機で五時起きする私はほんと楽しんでると思った。
G級まできて剛撃5烈2G3烈ドラヘビィ装備までつくったけれど、なんだかんだでずっとソロプレイ。ていうかMHFってシリーズでいちばんソロが楽なんじゃ……
超火力パートナーと最強スキル搭載ラスタ先輩、アイルーと違って頼りになるホルク、最終手段の元気のみなもと。これだけあればPシリーズよりも難易度低いですわ(錯乱
そろそろこの章を終わらせたいなー(白目
MHFの日朝シクレ待機で五時起きする私はほんと楽しんでると思った。
G級まできて剛撃5烈2G3烈ドラヘビィ装備までつくったけれど、なんだかんだでずっとソロプレイ。ていうかMHFってシリーズでいちばんソロが楽なんじゃ……
超火力パートナーと最強スキル搭載ラスタ先輩、アイルーと違って頼りになるホルク、最終手段の元気のみなもと。これだけあればPシリーズよりも難易度低いですわ(錯乱
その夜、清音が食器の片づけを済ませて廊下を足早に進んでいると、誰かの怒鳴り声を聞く。びくりと肩を震わせて、足音を忍ばせ、聞こえたほうにゆく。屋敷の片隅の一室で、二、三人の男性が次々と己の言い分をまくし立てている。壁越しで内容は聞き取れなかったが、清音はその場にしゃがみこみ、耳を澄ませた。
男性たちは互いに言い争っているのではなく、声の聞こえないもうひとりの人物に対してことばをぶつけているようだった。糾弾と罵声。しかし、それらへの返答はちらとも聞こえない。誰に対して? 椿希? いや、彼女はこういうとき、なんの遠慮も躊躇いもなく言い返し、論破するまで我を貫き通す女だ。清音はわかるより先に気づいていた。彼らに対しているのは愛梨だった。
心臓が強張り、耳の奥が鳴り始めた。立ち去ることもできず、清音は顔を蒼褪めさせて硬直する。愛梨がどういう様子なのか、いとも容易く想像できた。嘲りの微笑を浮かべてただ好きにさせているのだろう、たぶん。あらゆることばを受け流しながら、相手にせず、ただ彼らが感情を剥き出しにしているのを見下しているのだろう。たぶん、それが愛梨の答えなのだろう。
待っても、待っても、愛梨の声はひとことも耳にすることはできなかった。沈黙がなにより圧力になる時間がある。すべては明白だった。この家の一族は、愛梨の存在によってずたずたにされたのだから。結局のところその状況までが愛梨の想定内だったのだから。
ひときわ大きな声が聞こえた――「毒婦! 悪魔が!」
愛梨が感情を露わにすることはなかった。露わにしなかったという事実自体に、清音は打ちのめされそうな感覚を憶える。
彼女にとってこの家で過ごした時間はなんだったのだろう?
「天見さん。ついてきてくれる?」
「はい」
「あたしはー?」
「師匠はここにいてね。退屈だと思うから、なんだか悪いわ」
「りょーかい。がんばってねー!」
ふたりは愛梨の離れまでゆく。椿希はもう無駄口を利かなかった。彼女も思うところがあるのだろうと感じ、天見もなにも言わなかった。襖を叩き、返事がくるまえに開け放つと、愛梨の傍でキャリーバッグに荷物を詰めていた清音がはっと顔を上げた。
愛梨の所持品はそのキャリーバッグに収まる程度しかなかった。他のあらゆる荷物は置いていくようだった。必要最低限の必需品しかなく、衣服も、娯楽用品も、装飾品も、みな椿希の父が与えたもので、彼女には必要ないものだった。身軽すぎるほどで、明らかに出て行くことを最初から想定していた。一年以上ここに住んでいたというのに。
愛梨は振り返らずに言う。「あんたと話すことはもうない」
椿希は腕を組んで、「そうでしょうね。でも、いいかしら。昨日、愛梨さんがなにを望んでいたのか聞いたけれど、私に限って言えば、まだ破滅していない。壊れて、潰れて、おかしくなってない。それでもいいのかしら」
「もうあんたに興味がないんだよ」
その短いやり取りだけで、愛梨がいまの状況をどう感じているのか、明白だった。まるでやり慣れたことを繰り返しているだけのように見えた。なにかを感じる心も擦り減っていた。
「こんなことはもう何度もやってきたことだ」と愛梨は言う。「何度も。どいつもこいつも、結局はおんなじ反応しかしない。なんにも変わり映えしないんだよ、あんたたちは。どんなに善人ぶっても際の際でろくでもない本性を曝け出す。これだけやれば、もう充分だ」
「……。それで、あなたはこれからどうするの?」
「言っただろ、変わり映えしないって。また新しい獲物を探して、堕ちるところまで堕としきって、サヨナラ。それだけだ」
きんとした静寂がその場を満たした。行き着くところまで行き着いた後の虚脱感が愛梨の背中から染み出していた。椿希にはそれが触れることができそうなほどはっきりと感じられた。彼女がどういう人生を辿ってきたのか。どれほどの繰り返しを繰り返して、そうした場所に行き着いてしまうのか、途方もない虚しさが胸を打った。
「明日には出ていく」
「待ちなさいよ」椿希は彼女に一歩近づく。「私はまだなんにもあなたと話してない」
椿希は近づかれたぶんだけ後退りし、嘲笑して言う。「いちばん傷つけたかったやつにそんなことを言われるとはね。酔狂だよ、あんた。背中の傷だけじゃ不充分だった? もっと殴り合ってやろうか?」
「そうしてもいいけれど、あんまりにも私に有利すぎて申し訳ないわね。弱い者いじめは嫌いなの。私がしたいのは――」
「和解? そうしたければ、いくらでもしてやるよ。許してくださいって言って欲しい? あんたに散々失礼をしでかして申し訳ありませんでしたってか?」
「……あなたの顔の傷について、私はなんにも言ってなかったわね。こちらこそ、ごめんなさい。許してほしいとは言わないけれど」
愛梨は両手を抱擁のように広げる。「いくらでも許してやるよ。こんなもの、なんでもないことだ」顔の傷に触れて言う。「生まれて初めてだった。正面きってぶん殴られたのは」そうして顔を背けてそっと呟く。「もっと殴られて然るべきだった……」
椿希は彼女を見つめた。ただ見つめた。なにかを言おうとし、言おうとしたすべてのことばは無意味だった。結局のところ、なにを伝えればいいというのだろう? 眼のまえの女は眼のまえにいるにもかかわらず遥か彼方に遠かった。
「もっと別のかたちで出会うことができていたら、私たちはもう少しマシな――」
この家に居続けることが彼女にとって幸いかといえば、まったくそうではなかった。なんの愛情も抱いていない相手の愛人としての立場を維持し続けてどうなる?
椿希はどうにか言う。「私、あなたのことまったく嫌いじゃなかったのよ。この古い家に嵐を招き寄せたことに対して、感嘆すらしてた。それだけはわかっていて頂戴」
「だからなに?」
「だから――」椿希は肩を落とした。「……引き際ね。これ以上、なにか意味のあることを言えるとは思えないわ。まったく、情けないったらありゃしない……」
椿希は愛梨に背を向けた。
天見が椿希について立ち去る寸前、愛梨は不意に言う。
「あんた。……天見? 少し話すことがある」キャリーバッグを閉じた清音に――「あんたももう充分。出てって、ありがとう」
椿希は首を傾げて天見を見つめる。天見は肩を落とし、さあ?という風に首を振ってみせる。
「椿希さま」と清音は言う。「これでほんとうにいいのでしょうか。これで……」
「私にできることはないわ」
「ですが――」
「彼女が望んでいるならこの家丸ごとくれてやってもよかった。この家を必要としてるなら。だって、私にはここは必ずしも必要なものじゃないもの。無駄な荷物」椿希はかたくなに言う。「でも、彼女はそれを望んじゃいない」
雨が降っている。地面を泥と変え、渡り廊下から見下ろす庭に刻むような流れをつくっている。椿希は立ち止まって水溜まりを眺めながら、彼女について、この家について、思いを巡らせる。
「……なんだかんだで、この家で彼女にいちばん惹かれてたのは私だったかもね」椿希は溜息をつく。「彼女がこうして出ていくって段階になって、ひどく心が乱されてる自分がいる。そう、たしかに、彼女の魅力にやられてた。いままで出会ったどんな人間とも違う……いまにも壊れてしまいそうなほど脆く見えるのに、それに引き込まれて、心の大部分を所有されてしまう……なんだって、破滅的であるってことがこんなにも愛おしく感じられるのかしらね。人間って気がつくといつでも自分にとって最悪のものを強く強く求めてるところがある」
ことばにしてしまえばひどく簡単なことではあった。椿希は額に手を当てて髪を掻き乱す。それが人間なのだろう。最善の選択をするよりもずっと最悪のものに価値を見出したがる。
「いつでも自分よりも厄介な問題を抱えた女とばかり寝たがる。さっさと気がついて、略奪愛に走ればよかった。なにもかも遅すぎるわね、いい加減……」
「椿希さま?」
「あの男が相手だったらこれっぽっちも負ける気しなかったのに」
椿希はついと踵を返し、母屋へ戻っていく。清音は様々なことを思い、細い足取りで彼女についていく。
ふたりきりになると、天見は少し首を傾げて言う。「なんですか?」
「別になんでもない。でも、少しだけ私の話に付き合って」
「はあ」
言いはしたものの、愛梨自身、自分の行いに戸惑っているように見えた。次のことばまでかなり長い時間がかかった。開け放した窓から梅雨の弱い雨が降り注いでおり、畳をわずかに濡らしている。愛梨はそこまでゆき、外に見えるガスがかった山脈に眼をやった。窓枠に手をつき、その指先がかすかに震えたところまで、天見には見えた。
ようやく愛梨は言う。「昔、社会的に殺してやろうと近づいた男が、山をやってた」
「登山家?」
「そう。教師だったけど、仕事にじゃなく、趣味のほうに全霊を傾けてるような人間だった。私はそいつのクラスの生徒で、そいつが私の先生だったことに我慢ならなかった。そいつが私になにかを教えるってこと自体に憎しみを感じてた。いや、そいつにっていうより、教師って人種自体が憎かった」
「気持ちはわかりますけど。私も不登校やってるんで」
「それで、そいつの家に何度も通って、親しくなろうとしたりした。いま思い返すと随分と熱心に挑戦してたように思う。石かなにかと寝ようとしてるようなものだったけど。そう、結果から言えば、大失敗の大敗北だった。私の人生のなかでただ一度だけの。私はそいつを破滅させることができなかったし、そいつは私に応じようとしなかった。一線を越えかけることさえなかった」
「へえ。女に興味がなかったんですかね」
「ガキがいたから、そうじゃなかったんだろうけど」
愛梨はまたあの匂いを感じていた。それは紛れもなく天見の存在から漂ってくるものだった。こうしていればはっきりとわかる。天見があの男とおなじ人種だということは。
始めて日が浅いとはいえ、天見という女は間違いなくその道を進もうとしている者だった。山狂いのなりかけ。この少女の行く先が彼と道を交えていることが、ほとんど予知のように愛梨には感じられた。顔も声も纏う雰囲気もまるで似ておらず、赤の他人に過ぎないとしても、ただ一点の共通点だけで、この人種はおなじ匂いを漂わせる。少なくとも愛梨にはそれがわかる。
「五年。私がそいつに費やした時間。高校を卒業して、まるで関わりがなくなっても、私は何度もそいつの家に行って、話して、触れ合って、おなじ時間を過ごそうとした。そいつを求めてた。まるで家族かなにかみたいに近しく感じたことさえあった。でも、だからかもしれない。そいつは家族と寝ようとする男じゃなかった」
「そのひとはいま?」
「もう死んでる」愛梨はかぶりを振った。「言っただろ。山で死んだやつがいたって。海外の山で雪崩に呑まれて遺体も帰ってこない。そいつは、私が破滅させるまえに死にやがったんだよ。それも、誰より愛していた子供をひとり残して」
天見は眼を細めて愛梨を見つめた。
「まるでなんの意味もないみたいに。塵屑みたいに、あっさりと。まだ高校生の子供がいたってのに。嫁もいなかった。子供はその歳でひとりになった。それって、残酷なことだ。子供がそれからどうなったのか私は知らない」
その窓辺から地面を見下ろせば、群生している椿がその花を落とし、泥の流れに身を浸している。この家の庭は椿の花がそこかしこに咲いていた。だから、椿希にその名が与えられたのだった。そして、愛梨はいつも連想している。斬り落とされた首。グランドフォールしたクライマー。その遠いイメージ。
「その子供も山を?」
「そいつが山に取り憑かれていく過程を間近で見てた。父親とおなじように……滑落して、血みどろになって帰ってきたこともあったのに、それをやめようとする素振りすら見せなかった。何度もひとりで登って……登って……もうとっくに死んでるかもしれない。少しまえにあいつらのいたアパートを訪ねたとき、そこにはもう別の人間が住んでいた」
「……」
天見は――
唇に指を添え、愛梨を見据えながら、天見は言う。
「それで、どうしてそういうことを私に話すんですか」
「どうして? そんなことは私が知りたい。ただ話したくなったから話した。あんたはあいつらとおなじ匂いがする。私は……」
愛梨は重く首を振る。
すべてのことばに意味はなく、ことばの奥にあるものに意味がある。ことばを重ねれば重ねるほど、愛梨は自分をひどく無意味な張りぼてのように感じた。そういうことを話したいのではないと自分でわかっていた。ひどく疲れ果て、虚勢すら張れなくなるほど消耗し、愛梨は肩を落として俯いた。
ふっと全身から力という力が抜ける。そうしてすべて引き剥がしたところで呟く。
「あいつが死んだとき、私は哀しかった。哀しみを感じる機能が自分にあったって初めて知った……」悶えるように――「そう。あんたにはこう言いたかったのかもしれない。もしあいつの子供と山で出会ったりなんかしたら、伝えておいて。……。――」
「なにを?」
「……。……ありがとう、って。そう……それ以外に、なにも……なにをどう言っていいのかわからない。もう……」
「そのひとの名前は?」
愛梨は自分を嘲り、自分をばかばかしく思う。そしてやめる。もう一度首を振り、正気に戻ったように言う。
「忘れて。どうかしてた。もういい、出てって」
天見はしばらく愛梨を見つめたままでいる。そうして、次のことばが出てこないことを悟ると、小さく頭を下げてその部屋を出る。
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