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2025/02/08 04:11 |
そらとあまみ 49
オリジナル。登山と微百合と日常と。



MHF、ようやっとHR500突破してSRの世界へ。やっと特異個体といちゃいちゃできるな!と思ってバサルモスに突貫してみたら飛び掛り一撃で死んだ。oh……
一ヶ月続けてみてまだ遊べそうだったので物は試しと思って課金装備を一セット購入。胴部位に乳揺れ匠と業物がついているモリガンコスことソウルシリーズ。いやぁ、こりゃたしかにエロい強いわ。しっかし一セットで一ヶ月分の基本料金越えるのはさすがにきついのでもう購入はしないかな。乳揺れ堪能したし。


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 杏奈はベッドに横たわり、携帯を肩と頬で固定した。相手はすぐに出た。
 『篠原さん?』
 「おっすおっす姫ちゃんいま平気ー?」
 『はい』
 「いきなりでごめん! 明日なんだけどさ、お父さんが車出してくれるっていうから、奥秩父あたりの山どっか登りに行かない? 三ツ峠でクライミングでもいーよー! 用事かなんかある?」
 『すみません、土曜は午前中部活で、午後からバイトの面接あるんで無理です。日曜なら大丈夫です』
 「あ、日曜? 日曜はあたしのほうがダメだわー、しゃーない、今週は見送りで。うん? バイト? ああそっか、山ってとにかく金かかるもんな! あたしも薬局でレジ打ちしてっけどもう高校三年間ずっと金欠だわ。がんばってねー!」
 『はい。また誘ってください』
 杏奈は通話を切った。

 あくびをひとつして、携帯をベッド横の机に放る。捗らない受験勉強を終えて、一息ついたところだった。後は寝るだけだから、もうなにもすることがない。電気を消して眼を閉じた。
 アルバイト。そう、山はとにかく金がかかる。軽いクライミング・ギアだけで千円越えはザラ、フラットソールに至っては良い物を買おうとすればそれだけで一ヶ月分の給料が吹っ飛ぶ。一回の山行で食費に交通費、テント場使用料にチップ制のトイレ。山は、ヨーロッパでは元々貴族の趣味だった。真面目に取り組もうとすれば、ソーシャルゲームの課金など可愛く思えるほどの金額だ。学生の身ではアルバイトは必須の事項と言える。

 そこまではおかしくない。
 しかし、あれ? いまの会話なにかおかしかったぞ。勉強に火照った頭でぼんやり考え、杏奈は眼を開けて首を傾げる。この違和感はなんだ。

 姫ちゃん。姫川天見。
 ……中学一年生。十三歳。

 「――アルバイトだァ!!??」

 ばばっと携帯を引き寄せ、着信履歴からリダイヤル。しかし、天見はもう出なかった。とっくに寝てしまったのだろう。




 空は寝惚けまなこを擦り、腕をもぞもぞさせてうるさい携帯を掲げた。もう無視して眠ってしまいたかったが、表示されている番号は杏奈のものだった。しぶしぶ画面をタッチして耳に押し当てる。

 「はい……」
 『櫛灘さん! ちょっ、櫛灘さん! 姫ちゃんからなんか聞いてません!?』
 「なんだい、いきなり……こんな真夜中に。天見から? なんかってなにさ」
 『姫ちゃん明日バイトの面接行くとか言ったんですけど!?』
 「あ? バイトって、天見はまだ中学生だろ? なに言ってんだよ……それとも、あたしが山へ行ってるあいだに、下界じゃもう三年も経ってたってのかい」
 『経ってません! 十三歳ですよ! これって明らかにおかしくないっすか!?』
 「ヴォリューム下げろよ……こっちは昨日、朝まで夜勤して、昼間も仕事行って、やっとこさ寝床についたんだから……頼むから、落ち着いとくれ」

 空はあくびをひとつした。起き上がり、眼を瞑って船を漕ぐ。
 杏奈のことばがいまいち頭に入ってこない。それでもどうにかして、事情を消化すると、ますますよくわからなくなって溜息をつく。杏奈の声がうるさい。明日は久し振りの休日だから、もうさっさと眠ってしまいたいのだが。

 「夢でも見たんじゃないの。でも、バイト? 天見がそう言ったのかい」
 『そうですよ! 夢じゃないっす! もう夢なんか一年近く見てやしません!』
 「はあ、そう……中学生でもできるバイトって、なんかあったっけ」
 『ありませんよ! あたしだって中学時代もう困窮しまくってたから自信持って言えます! だからおかしいんじゃないですか! もしかしてこう、なんかアレ、いかがわしいっつーかヤバイっつーか、あーゆう、その、手を出しちゃいけないよーな』
 「売春?」
 『いやぁぁぁぁああああああ』
 「うるさい。天見に限って、そりゃないと思うけど」
 『そういう思い込みがいちばんまずいんじゃないですか!?』

 というか、面接というからにはそんなんじゃないだろうと思う。
 そりゃ天見の歳でできるバイトなど存在しないとは思うのだが、そもそもあたしの時代と違うからなあ、と空は呑気に思う。自分の知っていることがすべてだとは思わない。気になるのはたしかだが、心配のような感情は湧いてこなかった。

 「もう連絡つかなさそう? 蒸し返すのもあれだし、受かるなり落ちるなりしてからもう一度聞いてみなよ。大したことなさそう」
 『櫛灘さんは気にならないんですか!?』
 「なるけどさあ……そこは、天見だし。あたしよりしっかりしてる相手に、なにを心配しろってんだい?」
 『あーもうっ、櫛灘さん! くしなっさん! 師匠でしょくしなっさん、姫ちゃんの! 弟子をこう、もっとなんかこうっ!』
 「ひとの名前を変に略して呼ぶなよ。……師匠?」
 『わかりましたもういいですっ! 切ります! おやすみなさい!』

 空がなにか言うまえに通話が途切れてしまう。まったく若さの勢いについていけやしない、ほとほと疲れてしまってもう一度溜息。
 天見がバイトの面接を受ける、ということより、杏奈に言われたことのほうが少しショックのようで、空はばたりと横たわって暗い天井を見上げる。

 「師匠、ね……」

 杏奈にはそう見えるのだろうか。
 天見に山のことを教えたのは自分なのだから、たしかにそう言われてみればそうなのかもしれない。自分と彼女について、いちばん当てはまることばは、師弟ではあるのだろう。そもそも血の繋がりもない他人なのだから。しかし、自分が師としてなにかをしたかと問われれば、どうしても疑問しか浮かばない。

 導いてやろうなんて、考えないこと。美奈子に言われたことだ。他人である限り、できることは限られている。でも、その限られたことさえ、あたしはできているか? 理想は遥か彼方に遠い。

 「なにかしてやりたいとは思うけど」
 
 空はひとりごち、ゆっくりとまどろみに沈む。




 翌朝、天見は何気なく携帯を覗いて、杏奈から不在着信がきていることに気がついた。
 しかし、かけ直すのが面倒なので放っておくことにした。

 「篠原さんだし別にいいか……」

 バスケ部の練習をそれなりに真面目にやって、昼過ぎ、椿希と駅前のロータリーで待ち合わせた。着の身着のままでいいと言われていた。履歴書もいらないと。そんなアルバイトがあるのか。警戒する思いもあるにはあったが、あまり胡散臭そうならすぐに帰ってくるつもりではあった。もともと二度会っただけの椿希に信用などない。
 なによりとにかく金を稼ぎたいから、行くだけ行ってはみる。ベンチに座って程なくすると、すぐに椿希がやってきた。昼の陽の下で見る彼女はどこか亡羊として見えた。天見は立ち上がって頭を下げた。

 「きてくれて嬉しいわ」
 「どうも」
 「隣の駅からバスで少し。まあ、すぐに着くわ。行きましょう」
 「この格好で大丈夫なんですか?」
 椿希は天見を上から下まで品定めするように見、「制服なら全然OKよ。セーラー服なのね。似合ってるわ」
 天見は鼻を鳴らした。「そうですか」

 小田急線。バスで丹沢方面へ。登山口へ向かうときのように、何十分もかかったわけではなく、十分と少しでバス停に降りた。それだけでももう山の風景が近い。畑と農道が広がり、濃い緑のなか、すっかり田舎という様子だ。一応、首都圏が近い立地ではあるのだが。
 この辺なら通勤もそんなに苦じゃないな、と天見は思う。ほとんど自転車で通えるような近さだ。もちろん、近場のコンビニなどに比べれば遠いが、そこは仕方がない。コンビニはそもそも中学生を雇ったりしない。

 「聞いてなかったですけど。なんの仕事なんですか」
 椿希は片眼を瞑ってみせる。「それは面接してからのお楽しみってことで」
 「こっちはなんの心構えもできないんですけど」
 「いいじゃない。別に肩肘張ることもないわ」

 納得できず、天見は軽く椿希を睨む。天見にも緊張くらいはある。なにせバイトなど初めての経験だ。
 みるみるうちに住宅地が遠くなり、ほとんど家も見えない。ただひとつ、随分と古びた、大きな屋敷がぽつんと建っているだけで、先頭をゆく椿希はそこに近づいていく。あそこ? 天見は訝り、すぐにでも立ち去れるよう身構えておく。畑仕事の手伝いでもするというのか。

 塀に表札。『桐生』。椿希の苗字だ……彼女の家だろうか。農家でもやってるのか。天見の見るところ、椿希はそういう仕事をする女ではなさそうな空気を纏っている。それはことば遣いからも明白だった。ますます不思議に思う。
 この女はそもそも何?

 作務衣姿の、二十代半ばくらいの女が、庭の松の木に脚立をかけて、枝を切り払っていた。椿希は縁側から声をかけた。「弘枝さん。いまいいかしら?」
 「はい、椿希様」
 天見に一度振り向いて、「ちょっと待っててね」

 椿希と作務衣の女が何事か話しているあいだ、手持ち無沙汰で、天見はぼんやりとあたりを見渡した。古く、広い家だ。これほどの家に立ち入った経験はない。ここで働く? そういうことになるのだろうか。たとえば、家政婦とか? 掃除。厨房。うまく想像できない。休日は山に行きたいから、放課後に数時間働く程度の軽さが理想なのだが。
 椿希が話を終えて戻ってくる。作務衣の女は松の下で、感情の読めない表情をしている。

 「お待たせ。じゃ、行きましょ。なんにもおもてなしできずに悪いけど、面接はあっちの部屋よ」
 「はあ」

 ふたりが行ってしまうと、弘枝は深く息をつく。舌打ちをひとつして、誰にも聞き取られないような声で呟く。

 「金持ちの考えることってのは……ったく。わっかんねーな、クソ」




 「さっきのひとは、入江弘枝さん。この家の家政婦。あなたがここで働くとなれば、まあ、上司になるのかしらね。わからないことがあったら彼女に訊くといいわ」
 「はあ」
 「と言っても、仕事は違うけどね。あなたにして欲しいのは別事。さて、ここよ」

 天見はその部屋の敷居を跨ぐ。大きな家に反してこじんまりとした、個人の部屋のようで、東向きの障子から射し込む陽光で明るい。本棚に畳まれた布団、机と椅子があるにはあったが、どこか生活感に乏しく、あまり使われていないように感じた。
 部屋の隅に未開封のダンボールが積んである。壁際が覆い尽くされるほどの、かなりの数だ。そのせいかもしれない。
 誰もいない。面接官らしき人物は? 天見が椿希を見ると、椿希は椅子に座って脚を組み、こちらを向いた。

 「じゃ、面接を始めましょうか」
 「……」
 「あら、どうしたの?」
 それはこちらの台詞だ。「桐生さんが?」
 「ああ、椿希でいいわ。誰を呼んでるのかわかりにくいし。そうよ、私があなたを面接するの。それがなにか?」
 「遊んでるんですか?」
 椿希は笑って言う。「まさか。私はいたって真面目よ?」

 そういう風には見えない。天見は椿希を軽く睨み、溜息をついて背を向ける。

 「それじゃ」
 「待ちなさいよ。待ちなさいな。働きたいんでしょう? 帰ってもいいけど、他に雇ってくれるとこあると思う?」
 「……。先にいいですか? 私になにをさせたいんですか?」
 「雑用。私の世話役。言ったと思うけど、私少しまえに静岡からこっちにきたばかりで、この家には居候させてもらってるの。で、さっきの弘枝さんはこの家の家政婦だから、私の身の回りのことまでさせるのは悪いわけ。で、個人的に誰か欲しくてね」
 「求人広告でも出したらどうですか」
 「そこまで必死じゃないもの。それに、高校生以上だと色々面倒だし。『お手伝い』に対して『お小遣い』をあげるってことにしといたほうが楽なのよ。それなら労働法にも引っ掛からないでしょ? それに」椿希は眼を細めるようにして、「あなた面白そうだし」

 つまり面白がられているわけだと。天見はすっかり不機嫌になってしまい、ますます椿希を睨むようにする。
 しかし、椿希の言い分にも一理あった。天見は働きたかった。中学生では働けない。このジレンマを打開するためのいいチャンスではあった。

 仕方なく、天見は座布団の上に正座した。挑むような眼で椿希を見つめる。「わかりました」
 「良い子ね」
 「そんな風に言われるのは久し振りですね」
 「あらそう。さて、じゃあ……まず、名前と年齢。自己紹介からお願い」
 知ってるだろ、と天見は思う。「姫川天見。十三歳。中学は○○……」
 「部活はバスケ部って言ったかしら」
 「真面目にはやってません」
 「ふむふむ。じゃあ休日にウチにこれる?」
 「いえ。平日の放課後に働きたいです」
 「そう――」

 椿希は品定めするような眼で天見を見ている。天見は臆することなく真っ直ぐに見返す。なるようになれだ。

 「そうねえ。あなたのことを知りたいのだけれど、自己アピールでもしてくれないかしら?」
 「なにを言えと?」
 「うぅん。難しいところね。部活以外に、特技かなにかある? 趣味とか」

 天見は数秒考えて言う――「……山」
 椿希は少し驚いたような顔をする。「山?」

 遠い眼をして、思い返しつつ言う――「今冬から……最初は上高地から岳沢のテント場で……丹沢の塔ノ岳が初めての山頂になります。クライミングもやってます、ジム行ったりとか、広沢寺に幕岩……ジムなら、五級か、簡単な四級の課題は登れます。三月には、積雪期の槍ヶ岳をパーティで登りました。ついこのあいだ、丹沢全山縦走を単独でやって、ゴールデンウィークにはふたりで穂高を。ヴァリエーション・ルートの、奥穂高岳南稜です。ただ未熟なのでリードの経験はありません。夏山の経験もありません、それはこれからやります。テント泊にはもう慣れましたから一通りはできます。三十キロくらいの荷物だったら背負えるし、何時間も連続して歩き詰めることもできます。こう言えばいいですか? 体力には自信アリ」
 「山……」

 不登校のことも言ってしまおうかと思ったが、それは長所ではないのでやめにした。
 椿希は虚を突かれたような表情だった。さすがに、天見の容姿と登山とは結びつかなかったのだろう。天見は少し満足した。





 「……まずはやってみましょうか」と椿希は言った。「明日はこれる? 日曜だけど」
 「ええ」
 「じゃあ、九時にここで。弘枝さんには伝えておくわ。じゃあ、お願い」

 天見が立ち去ると、椿希は障子を開いて外を眺める。
 丹沢山塊の緑色がそこに広がっている。しかし、椿希には遠い世界だった。天見の口からそれが語られるとは思ってもみなかった。あんな小さな子が……

 「山、ねえ」

 そちらから吹き渡ってくる風からは優しい香りがした。
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2014/01/12 07:53 | Comments(0) | SS

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