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2025/02/08 03:08 |
そらとあまみ 35
オリジナル日常登山微百合ぐだぐだ系。どこまでゆくのか。



参院選ですねっと。それほど身を入れて調べてませんが一応投票。
あんまりこのブログで政治の話とかしたくないけどいまの安部自民おかしいよなあ。


私の聖書とも言える小説から引用。

――「ああいう輩は自分の個人的な敵を見つけると、その相手を敵でいつづけさせることにもう夢中になってしまう。そうなると、それは相手が人間であろうと、何かの考えであろうとも、ライフスタイルであろうと、セックスであろうと、障害者であろうと、市自体であろうと、人種であろうと、宗教であろうと、そう、世界そのものであろうと、もう関係なくなってしまうのよ。
 達成感を得るための黒魔術。わたしの父はそれをそう呼んでいた。心をむなしさに食い尽くされてしまった人たちは、敵を抹殺することに餓えて、個人的な敵を見つけるのよ。必要に駆られてそういう敵をつくりだすのよ。そうすることで自らのむなしさを埋めようとするのよ。でも、このことで何より恐ろしいところは、むなしさを埋めれば埋めるほど飢えが強まることね」




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 「部長。来週から一週間不登校やりますんで、学校これないです。すみません」
 氷月は眉を上げた。「部活だけでもこれない?」
 「無理です。泊りがけで、山へ行くんで」

 こんな不登校があるのか、と氷月は思った。いままで、そういうのは後ろめたい感覚を伴うもので、もっとこっそりと、穴に潜るようにやるものだと認識していた。しかし天見の態度はどうだ。堂々として、こちらから目線を外そうともしない。

 「泊りがけで?……」
 「本番に向けて、勉強と練習になるかと思って。私去年の冬に登り始めたばっかりで、まだまだ初心者抜け切れてないから、少しでも多く経験しときたいんです。バスケできないのは申し訳ないですけど」
 「ああ、いや、私はいいんだけど。学校の勉強についてけなくなったりしない?」
 「暗記以外になんにもやることないテストなんか楽勝です。授業受けないで自分でやってたほうがずっと捗る」
 「うん――そうか。先生は、学校は勉強だけしにくるとこじゃないんだって説教するだろうけど」
 「だから山に行くんです」

 取り付く島もない。氷月は肩を竦めた。
 彼女を咎めることは簡単だろう。理解するのは、なんと難しいことか。とにかくわかりにくい無表情に、ぶっきらぼうで色のない声音。機械――いや、暗がりを静かに歩く獣かなにかのようだ。走り始める直前に身を撓める狼。

 「いまできるだけ練習しときます。目障りだったら言ってください。体育館って何時まで使えましたっけ」
 「九時。七時ごろに終わりって一応校則にはあるけど、熱心なやつはみんな怒られるまでやってるよ。私ら金曜日しか使わせてもらえないし、そうせざるを得ないとこもあるからね」
 天見はボールを構えて、「……私なんの練習するべきですか? なにができたら試合で役に立てます?」
 「そうだね」氷月は少し考える。基礎をやるのは、当然だろう。体育館でしかできない練習は?「シュートやろっか。あんたが点取れれば攻め手が増えるし、ドリブルやパスより楽しいしね……」

 氷月は天見からパスを受け取り、ゴールへ放る。なんの障害もなくうつくしい放物線を描いたシュートが当然のようにリングへ吸い込まれた。「こう。簡単だろ?」
 天見はなんとも言えない顔をした。

 女子バスケ部は体育館の四分の一だけ使うことを許されていた。もう四分の一は剣道部、半分はバレー部だった。どちらも、部員が多い。威勢の良い掛け声がひっきりなしに行き交い、床は絶え間なく振動し、熱気が篭もって暑苦しい。天見はひどく場違いな居心地の悪さを味わった。実際には、正当な部員なのだから、そんな感覚を味わう必要はどこにもないのだが。
 氷月のパスを受け取ってシュートを打つ。視界の端で、紡と渓が1on1をやっている。どちらも活き活きとして激しく動き、タイミングを窺って静動を繰り返し、しばしば手元が霞んで見えるほど素早い。天見は黙々とシュートを打ち続ける。アドヴァイスに対して謙虚に耳を貸し、クライミング・ジムのベンチに座っているときのように、ムーヴへの思索をじっと深めていく。緩やかに集中を深めていくための儀式。見、感じる。一式のルーチン。成功率は低い。なんでもかんでも初心者だな、と自分について思う。

 「いいよ。その調子」

 言われて、なにが? と鼻を鳴らす。自分でも、氷月のようにうまく打てていないことはわかっている。空や杏奈のように登れていないのと同じように。若干不貞腐れながらも、やり続ける以外に近道がないことなどわかりきっている。腕がじんじんと熱くなり、重くなるまで打つ。そうなっても打つ。単純な行為でしかないのに、慣れていない動きというだけで過度に疲労が溜まる。油の切れた機械のようだ。最近、自分は不器用だとようやくわかってきた。きっと運動全般に対して才能や適正が乏しいのだろう。学校の勉強がいくらできたって無意味だ。

 どうやったらシュートが入る? 脳味噌が蕩けるほど考えても、わかりっこない。入った場合の放物線と、入らなかった場合の放物線をいくら比べてみても、答えはでない。出ない答えを探し続けて延々と打つ。打ち続ける。




 ややあって、葛葉が練習に合流する。極度の集中状態で幽霊のようになっている天見を見つめて、「熱心だね。ったく」
 氷月はくすりとする。「生徒会の仕事は終わり?」
 「まあね。やっと一区切りついたとこ。で、私はなにをすればいい?」
 「フォワードかなあ。次の練習試合、姫川は固定砲台でいっぱいいっぱいだろうし。渓、鵠沼! 相手してやって!」

 ふと興味を抱き、シュートの合間に、天見は葛葉の動きを観察する。非正規部員のバスケ。元新体操選手? そういう女の動きがどんなものなのか。
 一通り見て、見なければよかったと思った。
 バスケに最適化された動きでなくとも、その非凡さは明白に読み取れた。肉体の節々、全身のキレがそもそも自分と違っていた。ディフェンスと向き合い、一瞬のフェイクから最大戦速に移行するその刹那、紡や渓と比べてもまるで遜色のない速度があった。才能と資質、適正に蓄積。そうしたものが一見するだけで存分に伝わってくるようだった。

 溜息が出てくる。氷月は天見にパスをして言う。「葛葉と自分を比べないほうがいいよ。あいつはそれこそ、幼稚園に入るまえから新体操やってたんだ。英才教育ってやつ。母ちゃんが昔オリンピックの最終選考に残ったくらいの選手で、環境もよかった。まあ、エリートだったんだね」
 「はあ」
 「それがウチの部の助っ人やってるなんてのもおかしな話だけど。ともかく、あんたはあんたにできることをやること。でも、私が見る限り筋はいいよ、あんたも……」
 天見はひねくれて言う。「凡人レベルで」
 「そう言うなって」

 腕が上がらなくなってきた。力んでしまい、シュートはゴールリングにかすりもせずに落ちてしまった。
 くたくたになるまでやり、もう完全に陽が暮れている。汗をかきすぎて唇を舐めると塩の味がする。そういう感覚は嫌いではなかった。適正なんてなくともからだを動かすのは好きだ。蛇口の水を捻って、頭から水をかぶる。

 「やー、やったったやったった」
 隣に紡がやってきて同じように水を浴びる。肩までの髪からぼたぼたと雫が垂れて、体操着を濡らしていくのにも、まるで無頓着な様子だ。天見は何気なく彼女に眼を向け、素肌に張りつく胸元を見て眉をひそめる。(でか……)
 紡はそのあたりの高校生よりもずっと発育がいい。他の誰かの成長まで喰らっているかと思われるほど。渓もやってきて、驚きを隠さずに声を上げる。「でかっ!?」

 渓とまったく同じ感想だったことに天見は憮然とする。紡はにこりとして、「そりゃーもう毎日揉まれてますからー」
 渓は噴き出す。
 「冗談ですよぉー。あたしが揉む側ですからー!」
 渓はさらに噴き出す。紡はケタケタと笑ってその場を後にする。

 慣れない環境でも平常運転な紡が羨ましい。天見はもう一度水をかぶり、がぶ飲みして、紡についていく。体育館のステージ裏の物陰が、更衣室代わりだった。
 紡はぱぱっと着替えてしまうと、体育館にかかっている時計を見て、「やべ、お店しまっちゃう。じゃね、姫ちゃん! 家の手伝いしなきゃだからあたし帰るよ! また来週!」
 「私来週学校こない」
 「んじゃ再来週! 山、気をつけて!」
 なんでわかるのかと思う。紡はやたらと勘のいい女だ。

 入れ替わりに葛葉と氷月がやってくる。なにかしら小声で話し合いながら、雑談という雰囲気ではない。氷月の眼が、セーラー服の上からジャージを羽織った天見を見て、「ちょうどいいや。いま姫川のことを話してたところ。来週――」
 「きません」
 氷月は苦笑する。「というわけ。葛葉。話わかりそうな先生いる?」
 「どうだろうね。先生は不登校をどうにかするのが仕事だから、理解しようなんて気があるかどうか。なにを置いてもまず、学校にこさせることを優先するんじゃないかな」
 「難しいね」

 批判を避けられないことは承知の上だった。理解されたいなどと思ったこともない。干渉されたくないし、矯正されたくない。初めて暴力を振るったあのときから、そういうことを極度に嫌う感覚が、天見のなかで育ってきていた。相手が誰であっても同じだ。反権威的な抵抗の衝動。

 「山、行くんだって?」と葛葉は言う。
 「はい」
 「やりたいことをやるため、か。学校はときどき邪魔になるね。ただ反抗するためだけに、っていうんなら、話がはやいんだけど」
 「そういうのもなくはないです」
 「優秀な先生は姫川さんに理解を示す態度を取ると思う。あなたの言い分もわからなくはないけれど――とか言って。充分に話し合う機会を設けるかもしれないし、あなたの声にじっくり耳を傾けることもするかもしれない。でも、最終的な結論が変わるまでいくことはまずないだろうね。結局、『そうさせること』が教師って職業の点数なんだから。生徒に寄り添って一緒に反抗するのは仕事のうちじゃない」
 「――? それは一般論ですか?」
 葛葉は肩を竦める。「経験論」




 帰路は静かだった。寝静まるまえの空白の時間。住宅街は月灯りの元に埋もれ、淡々と響く物音が遠い。
 「自分でこういうこと言いたくないんだけど、新体操に関して、私はすごく期待されてた」と葛葉は言う。
 「将来はオリンピックで金メダル、みたいなことまで言われてたもんな。テレビで特集組まれたりとかして」
 「大袈裟だったけどね。でも、熱意が続かなかった。っていうか最初からそんなになかったよ。周りの大人たちが囃し立てて、そうせざるを得ないところにどんどん追い込んでいただけ。からだ動かすのは嫌いじゃないけど、そんなに好きでもなかった。よくある話だよ。それで去年、いい加減にやめたいって言い出したときには、大騒ぎになっちゃった」

 葛葉の動きを見ればそういうことは想像がついた。そもそも打ち込んでいるわけでもないのに紡とやりあえるというだけで、天見には途轍もないことのように思われた。彼女自身、紡には散々やられていたから。

 「それで――?」
 「想像できるだろうけど、しつこいくらい引き止められたよ。いまやめたら絶対に後悔するぞ、って、ほとんど脅しみたく。不思議なもので、まずはみんな優しげな態度を取るんだよね。おまえの気持ちはわかるし、辛くて苦しいことだっていうのもわかる。遊ぶ時間がないのに不満を抱くのもわかる。厳しい指導に厭になるのもわかる。あれもわかるこれもわかる、みーんなわかってるって顔をするんだ。なによりもまずおまえの味方だって言うんだよね。それでも、こっちの言い分を聞いてる振りをしながらなんにも聞いてない」

 葛葉は苦笑して続けた。「で、しばらくするとそれまでのやり取りをみんな無視して言う。『諦めなければ必ず道は開ける』とか、『やり続ければ必ず夢は叶う』とか。『いつか努力が必ず報われる日がやってくる』とかも。そういう励ましを耳にタコができるほど聞かされたよ。ほとんど洗脳みたいなものだね」
 「あんときの葛葉は正直見てられなかったよ」
 「あっちの気持ちもわかるんだけどね。お母さんたちにしてみれば、娘にかけた時間とお金と、『愛』とかいうのを溝に捨てたくなかったろうし。
 やめること、諦めること、捨て去ること。そういうのが私の世界で殺人並みの罪悪になった。助けを求めると甘えるなって斬り捨てられる。泣き言を口にするとおまえはなにが不満なんだって突き飛ばされる。でもやっぱり、周りには『味方』しかいない。私の背中をぐいぐい押して、行きたくもないところへ行かせてくれる頼もしい――」天見に向けてウインクして、“ごめんね”のジェスチャーをする。「ちょっと汚いことばを使うんだけど」深呼吸をひとつおいて――「頼もしいクソ」

 四つ辻にきて、そこが氷月と別れる道だった。天見と葛葉の家はかなり近い。氷月は少しのあいだ、なんとも言えない眼で幼馴染を見て、困ったように頭をかいた。

 「葛葉。なんていうか」
 葛葉は手をひらひらさせてみせる。「もう折り合いついてるから。あんたがそういう態度になるとキモチわるいんだけど!」
 氷月は鼻を鳴らした。「言ってくれるぜ。わかったよ。じゃあな、姫川。山、気をつけて」
 「お疲れ様です。部長」

 氷月がいなくなると、葛葉はふっと息をついた。
 踵を返した背中に、天見はついていく。ふたりきりが少し気まずい。
 ややあって、葛葉は言う。「それでもやめられたのは、まあ、あいつのおかげ。塞ぎ込んで、女子トイレに篭もってひとりで情けなく泣いてるとこ見られたのね。で、こういう風に言われた――『おまえ、諦めるのを諦めてるだろ』って」

 風を送られたみたいだった、と葛葉は肩を落とす。「結局、そういうことだったんだね。私は逃げることから逃げてた。努力を遮断することに努力してなかった。やめることをやめていた。そのことに気づかされて、どうにか、エネルギーの方向を転換して、私は私に戻ることができた。
 先生はまずそういうこと言ってくれないからね。経験論って、そういうこと」

 天見は黙りこくって葛葉のことばを吸収し、反芻している。
 胸襟を開かれたのかな、と邪推する。

 「どうして新体操やめようと思ったんですか」
 「……まあ、いろいろあるんだけどさ」葛葉は唇をへの字に曲げて、「いちばんの理由は、レオタードが厭だったんだよね。エロくて」
 「は?」
 「なんであんなからだの線くっきり出るぴっちりしたもん着なきゃなんないのかって不満でさあ……! ハイレグに白タイツだし……! 大会出るたんびになんかじっとりした目線喰らってる感じがしてさあ! いやもうなんていうかほんと、あれだけは耐えられなかったわ、ちょっと太っただけで丸わかりだし……っ!」

 葛葉は両手を胸元に寄せてぷるぷる。聞いてなんだか損した気分になり、天見は深く溜息をつく。
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2013/07/21 13:11 | Comments(4) | SS

コメント

おまえのような不登校がいるか!!
世間にはもしかしたらいるのだろうか。
やりたいことがあるというのは幸せ。
posted by 無題 at 2013/07/21 18:14 [ コメントを修正する ]
この話を読んで、天見ちゃんや葛葉さんを見て、やりたいことをやりなよ!って思うのは簡単ですが、実際自分がその場にいて体を張って応援してあげれるのかというと……周囲の圧力に同調するか、関わらないようにするかの二択になりそうな自分にムカつく!
つよくなりたいねぇ…
posted by NONAME at 2013/07/21 20:13 [ コメントを修正する ]
実際義務教育なんて暗記してりゃ楽勝じゃないかとか、それならほかのことがしたいとか考え出すと学校に行く意味が見えなくなるんですよね
自分もそれで不登校になりましたし
いじめられてないなら来いよって怒る先生とか本当にめんどくさい、こっちの話を聞け
posted by NONAME at 2013/07/22 00:43 [ コメントを修正する ]
>>無題様
やりたいことに振り回されることもありますがw
天見に関しては私が手探りです……

>>2様
某RPGからの引用で――「キミが世界を滅茶苦茶に破壊し尽くしたとしても構わない。それでも、ボクはキミを祝福する」
ネットなんかでレッテル貼られてぼろくそこきおろされるタイプですね……まあ難しいですがw

>>3様
必死こいて周りが満足する道を辿った結果、結局最後に踏み外していわゆる負け組に頭から突っ込んだヤツもいるわけで。あのとき勉強しろ学校行けって無闇に騒ぎ立ててたやつらは責任取んなくていいどころかますます罵ればいいんだから気楽なもんです。私は負けなきゃ書けませんでしたけどね!
posted by 夜麻産 at 2013/07/28 08:30 [ コメントを修正する ]

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