オリジナル。非百合()
いろいろ思考中につきお見苦しいところを……
書きたいキャラがはっきりしていて、書きたいテーマもはっきりしているのだけれど、それを描くための最適解となると途端にわからなくなるわけで、つまるところ末端から少しずつ手探りで書いていくしかないの、だ、けれ、ど。
プロット段階のテンポとか、ストーリーの流れとか、そういうのを意識すると駄目なのかなあ、と。
ぶっちゃけ考えないほうが書くのははやい。
でもそれで続けていけるかってーと、うん。
キャラには私の意図を超えていってほしい。そのための性格設定とかしたりする。いちばん顕著だったのは慧音の獣だったわけで。うん。まあ。
キャラに踏み潰されたいというマゾヒズム的な快感があるよねって(ry
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いろいろ思考中につきお見苦しいところを……
書きたいキャラがはっきりしていて、書きたいテーマもはっきりしているのだけれど、それを描くための最適解となると途端にわからなくなるわけで、つまるところ末端から少しずつ手探りで書いていくしかないの、だ、けれ、ど。
プロット段階のテンポとか、ストーリーの流れとか、そういうのを意識すると駄目なのかなあ、と。
ぶっちゃけ考えないほうが書くのははやい。
でもそれで続けていけるかってーと、うん。
キャラには私の意図を超えていってほしい。そのための性格設定とかしたりする。いちばん顕著だったのは慧音の獣だったわけで。うん。まあ。
キャラに踏み潰されたいというマゾヒズム的な快感があるよねって(ry
冷たく、乾いた空気に満ちている。夜が明ける直前の藍色の闇。東の空はもう白み始めている。
川幅の広い、一級河川の土手を、天見は走っている。ジャージのジッパーをいちばんうえまで上げて、手袋をはめ、白い息を散らすようにからだを動かしている。うっすらと汗をかいて、それが外気に晒されてぐっと冷えていく。目許が痛くなるほど寒い。
無心で脚を動かしている。こうしたことを、もう一年近く続けている。空と逢うよりも以前より。学校を休みがちになって、次第に休む日のほうが多くなってきたときからだった。
そこまで続けていれば、小学生でも、なかなか堂に入った様になっている。擦れ違う顔見知りも多少はいて、無言で頭を下げて通り過ぎていく。そのたびに、邪魔にならないようにひとつに纏めた髪が首の後ろで揺れる。
平日の朝だ。朝練なのか、高校生くらいの一団が横を走り抜けていく。なにか一個の生物のように、凝り固まった熱の手触りを感じた。そのうちの何人かが奇妙なものを発見する眼で天見を見ていく。
走っているとはいえ、もちろん、そんなに大した距離でも時間でもない。四十分から五十分ほど。距離にすれば、六、七キロくらいだろうか。とはいえ、おかげで、今年の学校の持久走では二位を取った。男子の上位集団と比べても遜色ない。真面目に学校へ行っていれば、一年前と同じように、下から数えたほうがはやいくらいだったろうが。
家に帰ると、十分ほどかけて、じっくりクールダウンする。
さらに三十分ほど、念入りにストレッチする。全身の筋肉をほぐして、柔らかくする。
登校時間を気にする必要もない。気楽なものだ。
これを習慣づける以前は、からだも固く、体力もない、怪我のしやすい子供だった。階段を踏み外して骨を折ったこともある。いまは丈夫だと、自分で自信もある。現にベースキャンプまでとはいえ、櫛灘空についていっても、弱音のひとつも吐かずに済んだ。
軽くシャワーを浴びて、食卓に向かう。
朝食は準備してあるが、父親も母親もいない。顔を合わさないようにしているからだ。通勤時間が合わないせいだと、言い訳も用意してはあるが……
なんとなく鼻で笑って、まだ温かい目玉焼きの乗った、トーストに手をつけた。そのとき、電話がけたたましく鳴り、億劫に思いながらも、天見は出た。
「はい、姫川――」
『ヤッホー! イェーっ! 姫ちゃん起きてるぅー!?』
天見は頭を抱えかけた。「鵠沼さん……」
『おっすおっす! おはよう! 元気!? んでどうするよ今日、久し振りに学校行かね!? いやぶっちゃけ言っちゃうと先生にさー、誘ってみてくれって頼まれちゃってるんだけど! 都合悪くなると見て見ぬ振りするくせにホント余計なお世話だよねーっ! でも姫ちゃんいないとあたしもつまんないしさー!』
「行かない」
『マジでー! 実を言うとあたしもう姫ちゃんちのまえまできてんだけど!』
「え?」
天見は窓際に近寄ってカーテンを開け放った。数少ない――恐らく唯一と言ってもいい――友人の少女が、猫のように塀に両手両脚をつき、携帯を頬と肩に挟んでこちらを見ていた。天見と眼が合うと、両手を塀から離してぶんぶんと振るう。屈託のない笑顔。
『まあ行かないってんならいーや。また今度誘うよー! ところでさー、中学の制服もうきた? 見た? 着た? かーわいーよねー、ちょい地味だけど、姫ちゃんきっと似合うよー! やっべそろそろ時間ギリギリ――ンじゃねえーっ! 帰りまた寄るからーっ!』
「あ、うん」
言うだけ言うと少女はぴょんと塀から跳び下り、バッグを担いで軽快に走り去っていく。ほとんど飛ぶように。
なにかひどく疲れ果ててしまい、天見は肩を落として溜息をつく。
午前中は家に篭もっている。下手に出かけると、どうして小学生が平日の真っ昼間からこんなところにいるのかと、声をかけられてうるさい。以前一度そうなって、開校記念日を持ち出してどうにか誤魔化したが、それで何度も切り抜けられるとは思わない。
図書館で借りてきた本を開く。一時間だけ小説に集中する。
児童文学はもう読まない。そのほとんどが、どうせ対象が子供なのだからと、なにかそういう作者の意図を感じ取るようになって厭になった。すべての本がそうだとは思わない。が、本物を探そうと思うほど小説に真剣にはなれない。探すという行為にエネルギーを使いたくなんかない。
海外の本を読む。くだらない本ならそもそも翻訳もされないだろうと思って。それもいわゆる文学的な価値のあるものではなく、話題になるような流行のものでもなく、埋もれがちな。ページが茶色に染まっているほど古いものを。
空と出会ってから登山ものを読むようにもなった。小説家ではなく登山家の書いたもの。
特にガストン・レビュファなるアルピニストの本は気に入った。愛情の篭もった文というのを初めて目の当たりにした気分になった。天見のなんとなく抱いていた、山屋のイメージからかけ離れていた。文章は豊潤なイメージで満たされ、詩的ですらあった。日本語がこうも美しく見えるものかと思った。単なる山の記録ではなく、山を讃美していた。星と嵐、氷・雪・岩――
昼まで二時間を切ると、歴史や数学をやったりする。算数ではなく。
学校に行って授業を受けるよりずっと効率的だった。塾にも、行っていない。自分のペースでできるのが楽しかった。楽しそうな数式があるとそれをどこまでも追ってみたりする。暗記するのではなく、いろんな本を漁って調べてみたりもする。
学校の勉強は七割が暗記――と、そんな説を見つけて愕然とした。つまらないに決まってる。結局のところ、成績を判断するテスト、そのテストに最適な効率を求めて授業をしているわけだから。
不登校で初めてわかることもある。真面目な生徒のままでいれば、自分の立っている場所が、どれだけ狭い世界が気づかなかった。学校で、学校という世界について教えてくれないのだから、当たりまえだ。自分で調べている暇なんかありゃしない。そういうことを調べるよりもテストのための勉強で手一杯なのだから。
知りたいことを調べれば調べるほど成績は落ち込んでいく。
穂高のベースキャンプで、空に雪の斜面での歩き方を教わった。アイゼンをつけているときとつけていないときの、キックステップの違いも教わった。ピッケルを使って滑落停止の動作を教わったりもした。コンティニュアスやスタンディング・アックス・ビレイでパートナーを確保するやり方だって教わった。
生命に直結する知識でも、学校では当然役立たずだ。
冷蔵庫を漁って昼飯をつくって食べた。昨日の残飯をありったけ、熱したフライパンに放り込んでチャーハンにした。
勉強の続きをする。
今度は学校の教科書を開いて文字通り暗記する。不登校のせいで勉強が遅れたと、文句を言わせないために。余計な批判を黙らせるためだけにそういうことをする。数時間、目一杯集中して取り組むのだから、漫然と聞いているだけの授業より遥かに効率がいい。
実際、テストの点だけなら天見はクラスでいちばん出来がいい。
下校時刻をいくらか過ぎている。
電話が鳴って、天見は受話器を耳に添える。
『ぃよっ』
溜息をついてカーテンを開く。朝と同じところに、朝と同じ姿勢で、友人が両手をぶんぶんと振っている。けれど朝と違い、その両手でバスケットボールを支えている。
『「遊びにいこーぜぇ?」』
生声と受話器越しの声が重なって聞こえる。
天見は溜息をついて――彼女について何度目の溜息かもわからない――受話器を置き、ウインドブレーカーを羽織って外に出る。午後の傾いた強い陽射しと冬の冷たい風が同時に皮膚を突き刺す。
友人は既に自転車に跨り、紅と白のジャージ姿で待っている。学年でいちばん背丈が高く、時折高校生に間違えられさえする容姿に反して、表情は歳相応以上に子供染みた屈託のなさで、それがひどくアンバランスな印象を放散している。
そのアンバランスさが不思議と板についている、様になっている、そういう少女だった。
「行こっ!」
友人はそう言って荷台を示す。天見がそこに腰かけると、ほとんど間髪入れず、力強くペダルが蹴飛ばされる。
速すぎるくらいのスピードで風を切る。恐怖を感じる寸前のところまでいき、天見は咄嗟に彼女の肩に縋っている。彼女はまるで構わない様子で、ますます自転車を加速させる。
ほとんど飛ぶように。車さえ追い越しかねない勢いで。
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