オリジナル。なかなか登らない登山モノ。そろそろ記事の整理したほうがいいかなあ。
ここんとこ金欠でフリゲのつまみ食いしてたんですが思いがけず百合が多くて大満足です。
らんダンとかヴァンプリとかelonaとか。
……らんダンのエンディングで作者名を初めて見て驚愕のあまり温泉イベントのカナちゃん状態になったんですがあの方ってあの方のあの方でよろしいんですかね?(混乱
それはそうと花粉症の季節ですね(白目
鼻が痛いのとネタがないのになんかもう書きまくりたいっていう衝動が拮抗して煙草の吸いすぎで死にそうだけど後三時間でプリキュアなので生きろ私
ここんとこ金欠でフリゲのつまみ食いしてたんですが思いがけず百合が多くて大満足です。
らんダンとかヴァンプリとかelonaとか。
……らんダンのエンディングで作者名を初めて見て驚愕のあまり温泉イベントのカナちゃん状態になったんですがあの方ってあの方のあの方でよろしいんですかね?(混乱
それはそうと花粉症の季節ですね(白目
鼻が痛いのとネタがないのになんかもう書きまくりたいっていう衝動が拮抗して煙草の吸いすぎで死にそうだけど後三時間でプリキュアなので生きろ私
また遭難があり、誰かが死ぬ。結果の報道。別々の事件がひとくくりにされ、仕事熱心なコメンテーターが早速当たり障りのない罵倒を提供する。肥大化したSNSの統一意思が責任のないレッテルを貼り、休日返上で出動する救助隊に顔文字を交えてお疲れ様ですと敬礼を送る。
空は携帯をしまい、そうしたことばの群れから眼を逸らす。バスの窓に頭を預け、ぼんやりと雪に埋まるシラビソの林を見やる。
陽光の欠片も見えない。分厚い雲が世界を覆い、雪混じりの風を落としている。もしもあたしが死んだら――と思う。やはり言われることになるのだろう、山を舐めるな……ぶっちゃけ迷惑です……頭おかしい役立たずの屑。等々。等々。
(はい、はい)
毎年お馴染みの行事だ。それにいちいちナーヴァスになる自分も。
返信があり、携帯が震える。鵠沼茜から。心が少し温まり、ふと思いついて電話帳を探る。天見にはバスに乗るまえに連絡した。懐かしい名前をもうひとつ見つける。篠原武士。死んだ養父の――櫛灘文太のザイルパートナーだった男だ。
「娘が反抗期でな」
「なんでも反抗期のせいにするのはよくない親だね。仮に別の時期であっても、娘との関係はなにひとつ変わらなかった。そう思うことってない?」
篠原は苦笑した。「耳が痛いな。杏奈のこと、覚えてるか?」
「あのチビっ子だろ。っても最後に見たのも六年もまえになるのか。美奈子さんに似て綺麗な娘になってるんだろうね」
「ああ」
空はジョッキを飲み干し、声を上げて追加を注文した。居酒屋の暗い照明のなか、見るものすべてが薄暗い影に落ちているように見えた。向かい合って座っている篠原の顔も定かではなく、ただ懐かしむような表情だけがうっすらと見えた。
喋るたびに頬が痛んで、傷口に手を当てた。ガーゼの上からテープで固定していたが、八ヶ岳で、変な具合に転んでアイゼンの爪を引っ掛けてしまっていた。かなり長い距離をぱっくりと傷つけてしまい、いまもじんじんと鈍い熱さが滲んでいた。
「中高一貫の学校に通わせてる。○○女子――」
「へええ? お嬢様学校じゃない、大したもんだ。けっこうお転婆な子だったけれど」
「そうだな。正直、失敗だったかもしれないよ。いや、そんなこと言うのは無責任だな……」
空はジョッキを傾けた。喉に苦いものが広がり、うまく酔えないな、と苦笑した。「美奈子さんとはうまくやってる? こんなとこ誘ってよかったかな」
杏奈の咎めを思い出し、篠原も苦笑した。「おまえは女と思えないからセーフだ。美奈子とはちゃんと夫婦をやってるとは思うよ」
「まあ、いいことだよ」
「だといいな」
篠原は車できていた。だから酒は飲まず、つまみに少しずつ箸をつけていた。歳のせいか、指先は少し震えていた。筋肉痛もあった。
ややあって、空はぼんやりと訊いた。「また山、やり始めたんだって?」
篠原は頷いた。「おまえもな」
「あたしがやめてたのはくだらない理由からだよ。でも、あんたはもう歳が歳だし、家族もいる。膝やばいんだろ?」
「膝だけじゃないさ」
「頭だっけ?」
「お互いにな。ある日こう思ったわけだ。おれから山を取ったらなにが残るんだろう……って。実際、なんにも残っちゃいなかった」
空は怪訝な眼を向けた。「そりゃあんたみたいなのが思うことじゃないね。あたしと違ってあんたには嫁さんもいれば娘さんもいて、仕事もあれば友だちもいる」
「そうだな。おれは贅沢なのかもしれないよ」
「贅沢だよ。そのうちバチが当たるぜ?」
「おれって男は物凄く不自然な消費衝動の持ち主なんだろうな」
「でも、気持ちはわかるよ」
いちいち受け付けするのが面倒なのも確かだった。天見はクライミング・ジムの料金表と睨み合い、財布のなかを探った。小遣いは多いほうだと思うし、お年玉の分もたっぷりと残っていた。
(マンスリーパス。一ヶ月で……八回くれば元が取れる。二、三日に一回やるって考えれば――)
結局、購入した。どうせ空が誘ってくれない限りは山に行けないし、唯一の友人と言える鵠沼紡はもっぱらストリートバスケに没頭している。日常が退屈なのだ。
一日あけてきたはいいが、まだ筋肉痛が残っていた。指の皮も、かなり痛い。それでもホールドを掴むと、自然にからだは動いた。
登り方はだいぶわかってきたように思う。意識しなければならない部分。重心の移動。腕の位置、足の使い方。少なくとも最初のときのように、芦田に首根っこを掴まれるようなことにはならないと思う。滑らかと言えるわけでもないが。
限界レベル未満を何本も登って、六級のルートでつっかえた。が、どうにかすれば登れそうに思う。はっきりとしたコツがあるわけでもないし、それをイメージできるわけでもないが、どこかの動きが改善されれば。そう思い、何度も挑戦する。
(――痛いっていうか、熱い……)
テーピングすれば多少マシになるのかもしれないが、やり方がわからないし、現品もない。明日薬局に行って買ってこようと思う。
夕暮れの茜色が差し込み始めて、室内が燃えるように明るい。ふと外を見ると、西の空が鮮やかな色に染まっていた。山の上で見ればさぞかしうつくしいものだろうと思う。雪が溶けるまえに、簡単なところでいいから、もう一度空と登りたいのだけれど……
異性がいないからといって大声で猥談に耽るクラスメイトの後ろを通り抜け、篠原杏奈は足早に教室を後にした。耳にしたくなかった。よく知る少年漫画のカップリング談義。攻めとか受けとか○○×△△とかなんとか。おかしいのはどちらも男の名前ということだ。
夕暮れが異様に眩しく、足元さえ燃えて見えた。すぐに帰るつもりだったが、ふと移動教室の際に教科書を忘れていたことを思い出し、廊下を逆行した。
放課後で、そちら方面には人気がなかった。階段を登り、校庭を横切る生徒たちがかなり小さく見える階まで上がった。特になんの警戒もなく戸を開くと、女生徒がふたり教室の奥にいて、がたりと机を揺らしたところだった。
「……えと」
見知らぬふたりだった。しかし、どうしてこんなところにいるのか。考えるより先に察してしまうのが杏奈にはとてもつらかった。
ふたりが寄り添うからだをさっと離すと、杏奈は素知らぬ振りで敷居を跨いだ。
早足で自分の使った机に近寄り、鞄に教科書を放り込んで踵を返した。弱々しげにこちらを見つめる女生徒の片方が夕焼け以上に顔を紅くして俯いたところだった。そのネクタイは皺になって乱れ、ブラウスの胸元から薄い色のブラが見えていた。
(高校生って……これだから――っ!)
そのノリにまったくついていけないのだ。どいつもこいつも色気づきやがって。杏奈は逃げるように教室を出、下駄箱に向けて走った。
下駄箱を開けると、一枚の封筒が羽根のように舞い落ちた。杏奈はローファーに手をかけたまま硬直してしまった。ややあって、震える手で封筒を拾い上げ、中身を開いた。可愛らしい便箋に可愛らしい文字。考えるまでもない、ここは女子高だ。
(おい)唇を舌で濡らして、(あかん)
ぞわぞわと背中が怖気立って、流し読みした。予想通りだった、罰ゲームかなにかの嫌がらせであってほしい。読み終わると封筒に元通りに戻して、ローファーと入れ替えで突っ込み、バチンと蓋を閉めた。
「無理無理マジ無理」
冷や汗が腋の下を伝う。どういう気持ちで手紙なんぞを仕込んだのか、それを想像するとひたすら悪い気がしたが、無理なものはどうあっても無理だ。ダッシュで校庭を突っ切り、急用がある振りをしながら裏通りを駆け抜けた。
荒々しい手つきでネクタイを緩めて、コートを着直した。思いっきり眼を閉じて、叫びのひとつでも上げたい気分だったが、住宅街のど真ん中でそういうこともできなかった。ストレスが溜まっていく。なんとか解消しなければと思うと、自然に、足取りは駅のほうへ向かっていった。
クライミング・ジムという空間でブレザーにスカートという制服は厭でも目立った。入り口で杏奈がコートを脱ぎ、視界にちらりと入った瞬間、天見ははっきりと思い出した。壁から眼を逸らして彼女を見つめた。“黒シャツ”をお父さんと呼んだ女性だ。
しかし、名前は知らない。
受付のあと、真っ直ぐ更衣室に向かったところまで見た。次に杏奈が出てきたとき、明らかに学校指定の体操着で、子供っぽい青いラインの入った白い生地が照明にひどく眩しく、下はエンジ色のジャージだった。
天見は首を傾げた。(なんだろう?)
クライミングシューズとチョークバッグを受付で借り受けるところも見えた。自分と同じ初心者なのかと天見は思う。の割には迷いなくすたすたとジムの奥に陣取り、ストレッチを始めた。一連の動作に臆するところがなかった。
天見の指と腕はかなり消耗しており、休憩を挟んでも登れるかは微妙だった。それで、その少女を観察し始めた。すると、そのとき携帯が震えた。チョークに塗れた手をシャツの裾で拭って、画面を見た。櫛灘空だった。
『天見? いま大丈夫?』
「はい」
小声で話しながら少女を見た。マットの上に座り、傾斜の緩い六級の課題を登るところだった。ホールドを確認する様子もなく、スッと腕を伸ばしてからだを持ち上げていた
『今度の土日でどこか行かないかなと思ってさ。暇あるかい』
「いつでも大丈夫です。学校行ってないんで」
『ン……』
空が言い淀んだ。さすがに、堂々と不登校を宣言することに思うところがあるのだろう。もともと、彼女は天見の母親に“教育”を頼まれて一緒に登っているのだから。
天見が空のことばを待っているあいだに、杏奈はその課題を登り終えていた。最後の最後までまったく迷いの見えない、滑らかなクライミングだった。マットに猫のように着地し、そのまま隣の課題に取り付く。ホールドの横に赤いビニールテープが目印の、四級だった。
『あのさ……』
四級以上は手足が限定される。足をかけるところも、目印のテープが貼られたホールドにしか置いてはならないのだ。天見からすると、取り付きの段階でどうしようもないレベルだ。が、杏奈はなんの躊躇いもなく腰を浮かした。
『んー。あたしが偉そうに言える立場じゃないけどさ。なんていうか、勉強も大事なことだと思うんだよね。そう、友だちつくれる機会でもあるしさ。そういうのって、貴重だよ。いましかできないことでもあるし』
「知ってます」
『っあー……』
「わかります。私にもひとりくらいは友だちいるんで」
六級とまるで変わらない動きだった。ボルダーだから、数手しかない。いかにも簡単な課題であるかのように、杏奈はいちばん上まで登っていた。最後の一手は天見には怖ろしく遠くにあるように見えたが、杏奈は難なく重心を移動させ、柔らかく捉えていた。
空は歯切れ悪く言った。『あたしがこういうこと言うのもお門違いとは思うんだけどさ……』
「それもわかります。気にしないでください、すみません」
『やっぱ学校行く気ない?』
「行ってもいいです。でも、本質的にはなにも変わらない。問題って問題はなにも解決しませんが」
『あんたが単純な引き篭もりってんなら、山に連れ出した時点で終わってたんだろうけどね……』
杏奈は反対側の壁に移動する。天見もそちらのほうを向いてベンチに座った。一瞬、杏奈はちらりと天見を見た。その眼が、こんな小さい子でもやるんだ……というような心模様を映し出した。が、それは奇異なものを見る眼ではなく、遠い同志に向けるかのような色だった。
その壁はかなり傾斜がきつい。下部はアーチ状になっており、上部にしてもかなり前傾していた。杏奈は下から上まで一通り見渡して、マットに座った。掴んだホールドの横には灰色のテープが貼られていた。
「二級……」
『なに?』
「あ、なんでもないです」
杏奈の腕が軽やかに動く。
からだが地面とほとんど平行になり、フラットソールのエッジが小さくホールドを捉える。天見の位置からではなにをしているのかほとんど見えない。アーチ状を抜ける部分に至り、両足が壁から離れる。懸垂の格好で、しかし、指がかかっているのは残酷なほど細かいカチホールドだ。爪でしか支えていないようにさえ見える。
『――天見? 聞こえてる?』
「ちょっと黙っててください」
『えっ、あ、はい』
体操着の上からでは、広背筋と僧帽筋の緊張は見えない。しかし、天見はそのあたりの筋肉が震えた瞬間を目の当たりにしたような気がした。
まったくなんでもないかのような一撃だった。それで、杏奈は登り切っていた。手こずっている様子が見えない。少なくとも、天見にはわからなかった。
マットに着地するその動きさえ、あらかじめ約束してあったかのような柔らかいものだった。どこにも敵などいないかのように。
戻ってきて、チョークバッグに手を突っ込む。休む間もなく次の課題へ歩いていく。
その取り付きのホールドにもやはり何枚かのテープ。そのうちのひとつは黒だった。
「初段だ」
『あの、天見?』
「空さん。ロッククライミングって、私くらいの歳でどれくらい登れるものなんですか」
『ええ? どれくらいってそりゃ、モノによるけれども。十一歳の女の子が14cをレッドポイントしたとか聞くね。もちろん日本人の』
5.14c。天見には見当がつかない。「十一歳――」
『そりゃつまり、あんたより年下で、あたしよりずっと登れちゃうってことだ。漫画みたいな話だね。でもなんでそんなこと聞くの?』
当然、ボルダーとルートクライミングは違うものなのだろうが。天見は登る杏奈を見つめる。体操服姿の少女は見た感じ16・7歳ほど。小学生にとって高校生は果てしなく大人に思えるものだが、実際には五年六年程度の差しかない。
杏奈のムーヴは、もはや天見にはまったく理解できない。ただ凄いということしかわからない。私は六級でもう喘いでいるのに、その領域に達した者には、いったいなにが見えているのだろう……
「すみません切ります」
『えっ天見待っ――』
携帯をしまい、チョークバッグに手を突っ込む。登りたい、と思う。登れるようになりたい、と。
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