オリジナルss。
明けましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願いします!
……えー、どこでなにをするかわかりませんが。
書き溜めてる分はぽつぽつ更新しますがどこで止まるかわかりません!
次なにを書いたらいいのかもわかりません!
わかんねーなにもかもわかんね(ry
明けましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願いします!
……えー、どこでなにをするかわかりませんが。
書き溜めてる分はぽつぽつ更新しますがどこで止まるかわかりません!
次なにを書いたらいいのかもわかりません!
わかんねーなにもかもわかんね(ry
空はぼんやりと鵠沼茜のことを思い出している。中高の――もう十年以上もまえになる記憶。懐かしさばかりが溢れ出てきて溺れそうになる。
古びたアパートの一室は、当時住んでいた部屋に比べて狭くてぼろい。いちばん家賃が安いのを、と不動産屋に要求してあてがわれたのだが、空はわりと気に入っていた。最寄の駅は少し遠いが、近くにコンビニもスーパーもあって不便はしないし静かでいい。風呂とトイレは一緒だが共用ではなく、少し詰まりやすいがだいたいにおいて問題はない。
それに、窓が西向きで夕暮れが静かに差し込む。朝は暗いが。冬は寒いが。まあおおむね悪くはない。
あたしにとって彼女は下界の象徴だったのだと思う。あるいは学校という場の。いい意味で。
「鵠沼さん」
「紡でいいよお、姫ちゃん」
「鵠沼さん。このスカーフってどうやって結ぶの」
少し早めに中学の制服が届き、天見はひとりで試着しようと思ったのだが、タイミング悪く紡がやってきていた。着てみて着てみてとやかましく要求されれば、鬱陶しいのでさっさと追っ払ってしまいたい。仕方なく袖を通したがよくわからない。
「ばっち任せて! おおー、姫ちゃん思ったとおりメチャクチャ似合ってんじゃん! ええーっとこれはこうしてこうしてこうしてハイ! 一丁上がりよ!」
完璧に結ばれていたが手元が早すぎてどうやったのかわからなかった。「……ああ、うん。ありがとう」
仕方ないから自分でやるときはスカーフはいいやと思う。校則違反じゃあるまいし。
袖と襟に青いラインの入った、白のセーラー服だった。それはいいのだが脚が寒い。普段スカートなんて選ばないから余計に心細い。可愛いは可愛いのだろうが、それは可愛い女子が着た場合に限る。天見は自分の愛想のなさを自覚していた。
「下にジャージ……」
「ちょーお、待とう! それは勿体ないって! 寒かったらストッキングはけばいいんでね?」
「勿体ないってなにが」
こいつはときどき変なことを口走る、と天見は思うのだが、実際のところ、彼女がおかしいのか自分がおかしいのか、判断に自信がない。自分のことを一般常識に秀でた人間だと考えるほど自分を信じていなかった。
ストッキングは持っていないのでこのまえ買った登山用のタイツをはいた。冬山でも温かいよと空に薦められたもので、かなり生地が厚く、疲労の軽減や関節の保護も期待できる万能品だ。それだけで一気に温かくなった。
「……姫ちゃん」
「なに」
「もうちょいこう、さあ……肌色がぎりぎり透けるか透けないくらいの……なんてーかこう、ふぇちずむってやつをくすぐるような――」
しゃがみこんで足首の生地を引っ張ってくる友人は放っておき、鏡に自分の姿を映してみた。率直に思って、まったく似合わなかった。無理やりフリル付きを着せた子犬のような感じがする。
「少しがんばって私立に行けばよかった。私服でいいとこ」
「なんでだよー! すごい似合ってるしかぁわいーよー!」
「そうだね。鵠沼さんには似合うだろうね」
制服の似合わない生徒は三年間どうすごせばいいのか。天見は早くも難題にぶつかり、頭が痛くなるような思いで溜息をついた。
紡はぐっと拳を握り締めて言う。「誰かに見せびらかしに行こうぜ!」
「いや」
「あたしはやると決めたら即刻! いますぐ! 徹底的にやる女だよ! 姫ちゃんカレシいねーの? 気になるひととか」
「いない」
「姫ちゃん最近よく山行ってんじゃん? でもおじさんもおばさんもアウトドアってタイプじゃないじゃん? ってーことは教えてくれるひといるわけだ、そいつにしようそいつ!」
どうしてそんなにピンポイントで指名できるのか。櫛灘空を思い、天見は渋い顔をする。もとが無表情なのであまり変化がないが。
「この格好で外に出たくない。コスプレみたいで恥ずかしい」
「四月からそれで登校するんだよ!? コスプレってか正当だよ! 恥ずかしいんならなおさら慣れておかなきゃ!」
「そのひとの家遠い。六駅も離れてる」
「三十分もかかんないし歩いて五分で駅じゃん! いまから行けば夕飯まで全然余裕で帰ってこれるって! 交通費は奢っちゃう!」
「鵠沼さんがうるさくてだるい……」
「問題ないね! じゃあ行こ!」
結局のところ、天見はほんとうに厭ならばはっきりと拒絶する。紡はきちんとそのことを知っていた。というより感じていた。腕を引かれ、天見は家の敷居を跨いでしまった。陽が傾きかけ、空の家に到着する頃には夕暮れになってしまうだろう。
そのあたりではそれなりによく見かける制服だから奇異の視線はこない。だが、なんとなくコートの前面を閉じる。日曜日で、さすがに不登校とは見咎められない。
紡は眼をきらきらさせて訊く。「どんなひと? どんなひと?」
少し考えて天見は答える。「変なひと」
「そいつぁ大変だ! 楽しみ!」
「なにが……」
空に連絡したほうがいいのだろうが面倒だった。迷惑だったらその足で帰ってくればいいと思う。電車はすぐにやってきて、あっという間に到着する。歩いて十五分。みるみるうちに風景が田舎めいてくる。
道もわからないのにすたすたと小走りにゆく紡に、天見は辟易しながらついていく。おんぼろアパートはすぐに見えてくる。いなくていいのにと思うのだが、空の部屋に電気が点いている。溜息をもうひとつ。
物思いにふけっていたところに扉を叩かれ、空はびくりと顔を上げる。インターホンなどという気の利いたものはない。誰? こんなところにくるのは、妙な宗教の勧誘や、新聞の購読を勧めてくる熱心な販売員くらいなのだが。面倒に思いながらも立ち上がる。「はいはい!」
扉の外にいたのはやたらと背の高い女で、そのくせ顔つきは幼く、にこにこと屈託のない笑みを浮かべている。高校生? というか、誰?
「どなた?」
「姫ちゃんの友だちでっす!」
「姫ちゃ――天見?」
その天見が女の後ろから出てくる。「……空さん、すみませんいきなり。すぐ帰りますから」
面食らって、空はぽかんとする。とにかく入りなよ、ちらかってるけど。慌てて招き入れ、暖房をつけて湯を沸かす。お茶はないからコーヒーを。座布団を引っ張って少女ふたりを促し、自分はザックを背もたれに座る。
「こんばんは! 姫ちゃんと同じ学校の、紡といいます! よろしく!」
「ああうんよろしく。櫛灘空です。……小学生? 最近の子供は発育いいね」
「女のひとだったんですね! 山屋っていうから男のひとかと思ってましたっ!」
空は苦笑する。「よく言われる。でも女も多いよ、わりと……」
状況がよくわからないがいきなり賑やかになるのが不思議だ。で、なに? 立ち尽くしたままの天見を見上げて訊く。天見は困ったように表情をなくして――いつもないが――座る紡を恨めしげに見下ろしている。
「姫ちゃんコート脱ぎなよ」と紡。
「……」
「んもうじれったいなあ!」
立ち上がり様、紡の手が素早く動く。あっという間にコートをひっぺがされ、天見の制服が露になる。空は驚いたように彼女を見つめる。
「――へえ」
袖と襟に青いラインの入った、白を基調としたセーラー服。なにか不思議な想いに突き動かされ、胸の奥である種の痛切な感覚が亀裂をつくる。
空自身、中学生だった頃はブレザーとブラウスで、セーラー服は高校のときに着ていた。白ではなく、黒と茶の、地味目な色合いの。それをたったいままで思い返していたのだ。まさかこのタイミングで――まさか――現物が眼のまえに現れるとは。
思った以上にしげしげと観察してしまい、また、天見も思った以上にしげしげと観察され、率直な恥ずかしさから向こうを向いてしまう。夕暮れの色が部屋全体に突き刺さり、セピア色の影をつくっている。はっと我に還って、空は柔らかい微笑を浮かべて言う。「似合ってるね」
天見は困ったような無反応でいる。空は心の底から続けて言う。「可愛いよ。あたしが十代だった頃よりずっと可愛い」
天見は黙ったままでいるのに、なぜか紡のほうが嬉しそうな顔をする。「うひひ」
「じゃああたしらこれで帰りますんで! いきなりすみませんっした!」
「制服見せにだけきたの? おばちゃんびっくりしちまったよ、気をつけて帰りなね」
「空さん、ごめんなさい」
「なにを謝るんだか。ああそうそう、天見。今度だけどさ、ロッククライミングやってみない?」
天見は空を見る。空は穏やかな微笑のままでいる。彼女のことばの意味を考え、天見は眼を細める。クライミング……
それはつまり、ザイルを使うことを意味する。ザイルを使い、我が身を確保して登るということ。このまえのような登山とは違う、そういう形態の登攀。知識だけは仕入れてはいた。
いきなり……ではなかった。少なくとも、想像はしていたことだった。もしかしたら誘ってくるのではないかと。だから、天見は言った。あらかじめ用意してあったシンプルな答え。「はい」
躊躇いなく頷く少女に、空は嬉しそうに笑みを深めた。
ふたりが帰ってしまうと、空は部屋の真ん中で腰を下ろし、煙草に火を点けた。思い出と現実の狭間をふらふらとさまよい、あらゆる想いを巡らせた。もしかしたら、と思う。あのときの茜に、こうした風に山に誘えていたら、なにか変わっていたのではないかと。もしかしたら。
いや……だがそれも、終わった話だ。少なくとも茜と天見はまったく違うタイプの女だ。自分と彼女らも。サボリがち。優等生。不登校の問題児。いろいろあるもんだ、と思う。びっくりするくらいいろいろと。
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どこで活動続けていくにせよ、これからも氏の小説が読めることを楽しみにしてるぜよ