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2024/05/17 18:43 |
そらとあまみ 64

オリジナル。ジャンルはごった煮。
話を動かさんと!




MHF。穿龍棍とフォロクルル実装されましたね。

大抵のモンスターなら愛せる私もさすがにあのファルノックとかいうアフロ野郎には殺意を抱かざるを得ないわけで、同じ鳥竜であるフォロクルルも糞モンスの匂いがぷんぷんしてましたが、剛種と戦った限りむしろドラギュロスっぽくて素敵。G級? やだなあ星7はまだ防具適正外ですよ(震え声

穿龍棍についてはまあいろいろ楽しい仕様で語りたいこともあるのですが、とりあえずひとつだけ。
デビルメイクライだコレー!?


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 山伏――標高2013メートル。静岡北部の安倍奥の山々の盟主であり、東に富士山、北に南アルプス主稜の景色を有する、300名山のひとつに数えられている。頂上は一面の笹原となっており、眺望は限りなく開け、開放感のある広場だ。そこからの眺望は、決して3000メートル峰に劣るものではない。上空は梅雨の黒い雲が千切れ、その合間からどこまでも高い黒ずんだ青空が覗いている。陽光がところどころ幕のように降りて山々を点々と照らして、この時期ならではの情景を提示している。

 下ろしたザックの上に腰かけ、空は葛葉に言う。「疲れたかい?」
 葛葉は微笑んで、「そんなには。途中で降られたときにはどうしようかと思いましたけど」
 「まあ、六月だしな。でも運がいいよ。雨上がりの山って、なんだか格別だよな。普通に晴れてるより世界が綺麗に見える」


 それは冬の山では味わえない空気だ。
 山の夏は短い。初夏とはいえ、まだまだ肌寒く、また晩夏ともなれば、もう夏の装備ではいられない。ほんの数える程度の月。山がその懐を開く限られた時間。


 空は表情を緩めて、「しっかし葛葉、あんたは手のかかんない子だね。飲み込みがはやいっていうより、なにをすべきか、自分で二手も三手も先回りして学習しちまう。あたしなんか必要ないんじゃないかって思えるくらいだ。あたしとしちゃ楽でいいけど、なんだかあれだね、教えてるって実感がない」
 葛葉も微笑んで言う。「それはどうも。でも、それなら姫川さんだってなんでも自分でやりそうな感じありますけど」
 「天見には教えることを貪り食われてるようなもんだよ。気を抜くと骨の髄まで吸われちまいそうでちょっと怖い。手がかかりすぎるくらいのやつのほうが、教える側としては気が楽なんだけどね――」


 言いかけて、空はふっと思い出し笑いをした。
 天見にしろ葛葉にしろ、初心者としては優秀すぎるくらいで、弱音のひとつも吐かない強い子らだが、ひとり、文句たらたらでへとへとになりながらついてきた女を思い出したからだった。八ヶ岳の赤岳、中学生の空と、人妻となった美奈子と、どう考えても山向きの女でなかった愛梨。美奈子は久し振りの山でひどくはしゃいでいて、愛梨は極度の疲労から憎まれ口ばかりで……


 「――優秀なやつじゃなくてもいいんだ」
 空はことばを選びながら言う。
 「全然体力がなくて、足引っ張ってばっかで、登ってる最中に愚痴ばっかりでも。最後までやり続ける気さえあればさ。なんていうかな……それぞれの山に、それぞれの限界線上。それぞれの感じ方。別に、あんたたちみたいに、最初っからそれなりにやれるやつばっかりじゃない。ただ登ればいいってことでもない。線引きは、難しいんだけど……」


 難しいこと考えると頭痛くなるんだよな、と空はぼやく。昔から頭の悪い女だってのにさ。自分の髪に指を差し入れ、ぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、思考を紡ぐ。


 「あたしは、あたしの山について何度となく批判され続けてきた女だ。そのつもりはなかったのに未踏峰の初登をかすめ盗っちまったことについてもそうだし、女だてらにソロ・クライミングなんぞやって、自分の実力以上の壁に突っ込んだことについても批難された。登攀記録を精査されて、ひとつの選択を完全に間違ったことについても言われたし、続行と撤退の線引きについてもとやかく文句をつけられた。
 批判ってのはキリのないもんで、いっぺん目をつけられると、人格の根まで徹底的に破壊されるまで納まりがつかない。そうなると、こっちがなにを言っても一から百までネガティヴな風に取られて、そっから更に踏み込まれて、人間失格、みたいなとこにまで行き着いてしまう。つまんないことだけど、みんなそういうのが大好きなんだろうね。なんだかSNSみたいなのが目立つようになってから、余計にそう感じるときがあるよ。でも、違うんだ」
 葛葉は首を小さく傾げた。「なにがですか?」
 「間違いにはいつも批判が伴う。でも、批判ってやつは、間違いとは全然関係ないところにあるものだ。不純な動機、練習不足、準備不足、失敗。でも、実際にやってみて、どう感じたかはそいつ自身の財産だ。不可侵の答えだ」


 赤岳の頂上で俯いていた愛梨の姿が浮かぶ。疲労から顔を青くして、ぼそぼそと憎まれ口を叩いていた。不機嫌の極致にあり、触れれば破裂しそうにさえ見えた。けれど美奈子に小突かれ、また一緒にやろうぜと言われたとき、空の予想に反して、彼女の顔はふっと緩んだのだった。
 思えばあれは、自分と愛梨がいちばん近しいところにあることができた小さな一瞬だったのではなかったか。愛梨の心はいつもひどく遠く、刺々しく、空のほうから何度接近を試みても、突き放されるばかりで手応えがなかった。どれだけ手を伸ばしても届きそうになかった。それでも、あの一瞬、愛梨の顔の奥から見たこともない表情が透けて浮かんだあの一秒だけは――


 「……」


 空はふと顔を上げ、黒い雲の断層から覗く狭い青空を視界に入れる。モノクロームの視界のなか、その色だけがひどく鮮やかに輝いていた。


 


 ここがどういう地形なのか天見にはまだよくわからない。しかし、山に程近いことには間違いなく、さらに、近くに安部川へと流れ込む小川が流れている。そうなると、少し期待して、そこまで出かけていった。
 源流は遠いが、それでも上流だ。昨日愛梨が入り込んでいた竹林のさらに奥、木漏れ日が弾痕のように降り注ぐ場所を潜り抜けると、こじんまりとした流れの脇に出る。天見はさらに川を遡った。次第に、岸辺のそこかしこに自分の背丈ほどの岩が転がっている場所に出た。思った通りだ。天見はにやりとした。
 クライミング装備は持ってきていないし、当然ボルダーマットもない。しかし、岩さえあれば登れる。尻から落ちても大したことにはならなさそうだし、岸辺には落ち葉が敷き詰められている。天見はきょろきょろと見回しながら、適当な岩を見つけて立ち止まった。天見の背丈よりわずかに大きい。


 (いいぞ)岩肌に手を滑らせて――(悪くない。シットスタートで、四手……ってところか。丁度よく前傾してるし、ぎざぎざに亀裂が伸びてる。靴がスニーカーしかないのが残念だけど、フラットソールだと簡単に登れそうだな。トレーニングにはなりそうだ)


 不思議なもので、クライミングをやりだすと、ちょっとした岩や壁さえそうした眼で見るようになる。天見もそんな段階にきていた。
 岩の傍に腰を下ろして、じっくりとその亀裂を見やる。ちょうどジャミングを効かせられるほどの幅で、自分のムーヴをゆっくりと思い描けば、指先が疼くようにちりちりとする。からだが登りたがっているのだ。神経や血管がその感覚を求めている。


 (歩いて少しのところでこんな練習場所があるんだから、羨ましいよな。あの家、椿希さんも他の誰もクライミングなんかやらないんだろうけど)


 勿体ないことだ。こんなにも山が近くにあるのに。
 天見は早速登り始める。腕をいっぱいに伸ばし、その亀裂に貫手のかたちで手を差し入れ、少しだけ折り曲げて固定する。がっしりと自分が支えられる感触があり、スタンスを求めて足を持ち上げた。スニーカーだから、フラットソールのようにちょっとした突起にからだを預けるわけにはいかない。腕の力を頼りに、天見は重心を大きく振った。


 クライミングは腕ではなく脚で登る。しかし、本番においては基本を守れない事態も往々にして起こるものだ。そんな状況を想定しながら、さらにもう一手腕を伸ばす。そろそろと足を持ち上げ、スニーカーを亀裂に挟ませる。足先に痛み。上等だ!
 すべての思考が削ぎ落ちていく例の感覚のなか、ただ眼のまえの課題を登るだけの機械になる。その他はいらない。集中、集中、集中。その短い四手に全精力を尽くす。


 登り切り、岩の上に腰かけ、ふっと息をつく。
 木陰がきらきらと水面のように輝いている。分泌を終えたアドレナリンの反動から、あくびをひとつし、腕をぐるりと回す。そうして、やっぱりこれだな、と改めて思う。


 


 愛梨は少し離れたところから天見を見ていた。凍りついたように硬直しながら、息だけを荒げ、断続的に訪れる眼の奥の痛みの波を感じていた。
 記憶はいつもその爪牙を剥き出しにする機会を窺っている。なにもかもが過ぎ去っても、終わらない。思い起こされるあらゆる光景、あらゆる痛み、あらゆる苦しみが神経細胞の全組織を刺激する。


 (同類――)
 古い城址の石垣を登り、遥か彼方から自分を見下ろしていたあの忌々しい少女。


 愛梨はからだをくの字に曲げ、どうにか意識を保つのに全力を費やしながら、逃げるように後退する。
 そこに未来はなかった。ただ過去だけが残骸のように転がっていた。どうして、と思う。どうして、逃げて、逃げて、逃げても、追いかけてくるのか。どうして過ぎ去ってくれないのか。ただそればかりを考えている。


 


 「追い出す?」桜花は首を傾げた。「愛梨サンとやらを?」
 清音はどのように言ったらいいのか迷い、言うべきか迷い、言ったことを後悔した。廊下。後ろをとたとたと軽い足音を立ててついてくる桜花を追い払いきれず、桐生家当主の言をぼそぼそと繰り返した。「その……聡一さまが、愛梨さまの態度はこのところ目に余りすぎる、と……」
 「フゥン。えー? 愛人ってことは、その聡一サマが連れてきたってことじゃないの? どういう事情かなんて知らんけど。どういうこと?」
 「……えと。私もそんなに詳しく把握してるわけじゃないから」


 桜花は頬を膨らませ、素早く清音の前に回り込み、胸前に持ち上げた両手を無言で艶めかしく蠢かせてみせた。清音はひっと小さく悲鳴を上げて顔を赤くした。


 「だっ、だから――幹一さんがこの家を追い出されてしまったのも、もとはといえば愛梨さまが聡一さまにそう進言したからで、そういうかたちで追いやられてしまったり、立場を悪くしてしまった方が何人もいて。もうこのままじゃこの家が持たないからって、皆さんが……」
 「ああ、とーちゃんがウチに戻ってきたのってそういうワケなんだ。もっとはやくそーしてりゃよかったのに」
 「これまで、皆さんばらばらで……椿希さまが分家にお移りになってから、だったと思います。愛梨さまが離れにお篭もりになることが多くなって。お顔の傷を見られたくないからと」
 「でも椿希サマ愛梨さんと仲直りしに戻ってきたんだよ?」
 「え?」


 清音は眼を瞠った。椿希と愛梨の確執について、清音は話に聞いただけだったが、それはいっそ凄絶な印象を持って感じていた。愛梨の顔に刻まれた大きな傷。
 この古い家で次期当主として傲然と振る舞う椿希を幼少から見ていた。そして、新参とはいえ彼女に劣らぬほど傲慢にこの家の者を支配する愛梨の姿も見ていた。ふたりが対立する様を間近で目にしたわけではないが、それでもふたりの反りが合うことなど想像もできない。


 「皮肉なもんだなあ。椿希サマそんなこと望んでないと思うけど」


 清音は小さく俯いた。


 


 椿希は煙草に火をつけ、深く一吸いした。肺を煙で満たし、窓の外に向けて指先を逃がす。こちらは青空が覗いていたが、梅雨の黒い雲が山の上を覆い、晴れ間はあまり長く持たないように思われた。
 桐生楓は娘の背中に触れて言う。「傷は大丈夫?」
 椿希は母親を見ずに答える。「ええ」
 「ごめんなさい。私が不甲斐ないせいで、あなたをこんな目に合わせてしまって。火野愛梨みたいな女に、好き放題させてしまって――」
 「そう。あなたがしっかりと父のを咥えこんでいれば、そもそもこんな状況になることもなかった」振り返り、母親の震えを見て手をひらひらさせてみせる。「冗談よ。嫌ね、本気にしないで」


 楓は後退りし、ソファーに腰を下ろした。椿希は楓を見下ろした。母親は手のひらにすっぽりと収まりそうに思えるほど小柄な女で、それ以上に、心のありようが彼女をいっそう小さく見せていた。視線は落ち着きなく泳ぎ、椿希を真っ直ぐに見ようともしない。口では椿希に謝罪のことばを紡いでみせても、実のところ、彼女がほんとうに気をかけていたのは椿希ではなかった。『娘を傷つけられた自分』こそが謝罪の対象だった。なにより椿希の気に障るのはそうした自己憐憫が容易に透けて見えるところだった。


 「あなたが分家に移ってから、少し波風が収まったのよ。少なくとも以前のように、火野愛梨が我が物顔にこの家のなかを歩き回ることはなくなった。だからといって空気が良くなったとまでは言えないけれど」 
 「それは良かったわね」
 「この何ヶ月か、嘘みたいになにも変わっていない。紫藤のところの子がたまに手伝いにくるようになったくらいで、誰も追い出されなくなったし、弱味を握られるようなこともなくなった。良かったといえば、たしかにそう。でも私は心細かった……」
 「あなたのほうがもともと部外者だからかしらね? この家に嫁いできたってだけの」
 「わかるでしょう? 私の味方はあなただけ」楓は慌てて言う。「あなたのほうは? 桐生の分家で、不自由なことはなかった? ずっと心配していたのだけれど、連絡する機会もなくて」
 「宗次さんもシズも優しくしてくれたわ。こっちよりもずっと気楽だったくらい。御託はもういいでしょう? 愛梨さんをこの家から追い出す、って、なに? 私はそんな話これっぽっちも耳にしてないわ」


 椿希は煙草を灰皿に押しつけた。燃え尽きた火が最後の煙を吹き出して消える。母親に近づき、厳しい眼で見つめた。楓は見返そうともしなかった。


 「あの女は悪魔よ」
 椿希は眉を上げた。
 「この家を滅茶苦茶にして、あなたを傷つけて。このままじゃ、なにもかも駄目になる。だからそうするの。彼女が大人しくしているうちに」
 「私の記憶が正しければ、彼女をこの家に招いたのはあの男だったと思うのだけれど。彼女が押し入ってきたのではなく。招くだけ招いて気に入らなければサヨナラってこと?」
 「父親のことをあの男なんて言わないで。お願いだから」
 「私の記憶が正しければ、父親らしいことをされた覚えがないわ」


 楓は首を振って言う。「子供は弱いものよ。庇護がなければ、自分の足で立ち上がることさえままならない。あなただって、赤ん坊の頃は、他のたくさんの子供と同じだった。子供は誰かに愛されているから生きていくことができる。あなたがこうして成長していること自体、誰かの愛の証明だっていうことを忘れないで」
 「だから子は親に無条件で従属しろっていうの?」
 「そういうことを言っているんじゃ――」
 「愛の証明? まるで原罪だわね。私がほんとうに倒れ、砕け、崩れ落ちそうなとき、支えてくれたのは愛じゃない。ようやく立ち上がれたときにやっと我が物顔でやってきて、いかにも自分の手柄であるかのように幅を利かせてきたのが、愛。忌々しいことだわ。でも、いいかしら? 愛梨さんを追い出すって行為のなかには、愛すらないじゃない」
 楓は信じられないように椿希を見つめた。「あなたは反対なの?」
 「賛成するとでも思っていたの?」
 「あなたは現実に――」楓は背中を斬られたかのように顔を歪ませた。


 椿希は顔を背け、その部屋を後にする。
 自分がなにをしにこの家に帰ってきたのか、それは明白だった。しかし、それからどうするのか。その先、愛梨はこの家でやっていくことができるのか。それはまったく定かでなかった。椿希は愛梨にこの家を明け渡してもいいとさえ思っていた。けれど、少し考えればわかることでもあった……愛梨はこの家が欲しいわけではない。
 椿希はいらいらとして自分の爪を噛んだ。

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2014/04/27 07:41 | Comments(0) | SS

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