オリジナル。登山がしたい系ss。久方ぶりですが特に新展開もなく地味ーに。
リアルがやっとこさ煮詰まってきた感があるので地味ーに再開。
思い出したときにコツコツと書き連ねていきたいです。
ああ百合が喰いたい。可愛い女の子がいちゃついてるの見て悶え狂いたい。どうして私の書く女どもにはこう可愛げというものがないのだ。異種百合拝みたい。モンスター娘は世に溢れているのにどうしてそこに百合タグが入るとごっそり減っちまうんだッ! 女ハンターと強個体ティガレックスの血で血を洗う砂漠の夜の熱い逢瀬をry
リアルがやっとこさ煮詰まってきた感があるので地味ーに再開。
思い出したときにコツコツと書き連ねていきたいです。
ああ百合が喰いたい。可愛い女の子がいちゃついてるの見て悶え狂いたい。どうして私の書く女どもにはこう可愛げというものがないのだ。異種百合拝みたい。モンスター娘は世に溢れているのにどうしてそこに百合タグが入るとごっそり減っちまうんだッ! 女ハンターと強個体ティガレックスの血で血を洗う砂漠の夜の熱い逢瀬をry
だいたいストレス解消のために登ったっていいことなんかなんにもありゃしない。杏奈はそのことを知り尽くしていたし、思い知っていた。肉体は強張って思うように動いてくれず、ひとつひとつのムーヴになめらかさを欠き、課題をクリアできないことによるストレスがなおも加算されていく。悪循環だけが正しく機能する不毛な時間。が、結局のところ自分にはこれ以外ないのだ。要はそれが問題なのだ。
「得るものがないんだよ……」
むすっとしてベンチに座った。眼のまえの壁で、名前も知らない女の子が登っている。いいなあ、と思う。見た感じ小学生くらいで、その頃はあたしも登るのがただ楽しかった。頭は空っぽで、悩みなんかなにもなかった。
女の子が――天見が落ちる。腕の引きつけが足りないし、膝の伸びが足りない。客観的に見ればすぐわかるが、当事者はあれでいっぱいなんだろうなあ、と杏奈は思う。
おもむろに携帯を取り出し、カメラ機能を作動させる。
思うように登れずに帰ってくる。天見は溜息をついて肩を回す。腕だけではなくからだじゅうの色んな筋肉がずきずき痛むのだから、たまったものではない。
(上達してる感じがしない)
登れるだけで楽しいといえば楽しい。長々と歩き続ける縦走と違い、ボルダーは楽しさがわかりやすい。それでもやはり、やるからにはうまくなりたいし、そうでなければ挑戦できるルートが少なすぎる。初心者用のルートがそう何本もあるわけではないのは、天見にもわかる。
対戦者のいない競技だから、自分が満足できなければ意味がない。そして、天見はまったく満足していない。
ベンチに座り、クライミング・シューズの紐を緩める。長く履いていると痛いったらありゃしない。そのとき、不意に声をかけられてびくりとする。「ねえ」
振り向くと、例の女がいる。ささっと隣に座られ、天見は軽く心の態勢を崩されかける。
その距離は天見のパーソナル・スペースだ。無条件に居心地が悪くなって身を捩る。「なんですか」
「杏奈」
「え?」
「あたしの名前ね。篠原アンナ。あなたは?」
「……姫川天見」
「姫ちゃんね。このジムにくるんだったら何度も会うと思うんだ、よろしく」
「その呼び方嫌いなんでやめてください」
「ええー? いいじゃんかわいーよー。まあそんなことよりコレ見てコレ」
思いっ切り棘を含んだ声で言い返したことばを回避され、天見はぐっと息を詰まらせ頬を引き攣らせる。さらに座ったままぐいと身を寄せられてベンチから転げ落ちそうになる。率直な不快感に目許がぴくぴく。
天見は社交性ということばとは対極にいる少女だ。そして天見自身、全身でそれを表現しているつもりだった。無愛想と無表情とむっつりした低い声で。が、この杏奈とかいう女はまるで気にしてやいない。
「コレ、コレ」
携帯の画面を提示され、天見はしぶしぶ見やる。「なんですか」
「姫ちゃんがいま登ったとこ録画してた」
「は?」
「自分のムーヴ客観的に見れたほうが練習になるでしょ?」
そして流れ始める映像に、自分の後姿。天見は眼を瞠り、すぐに細める。じとりと湿った咎める視線で杏奈を見る。ひとの許可もなくなにを勝手に。そう全力で言外にほのめかしたつもりが、なにを勘違いしたのか杏奈は邪気のない顔でにこりと笑う。
「腋あけすぎ。ほら、全然からだを引きつけられてない。引きつけられないから、立ち込めない。立ち込めないから届かない。で、落ちる」
「……」
「まあ、見てて」
杏奈は携帯を天見に押しつけ、液体チョークを手のひらに塗って立ち上がり、天見がいま登った課題のまえに行く。そして、登り始める。
手のひらのなかで自分の登り方がリピートし、現実で同じ場所を杏奈が登っている。そう、同じ課題なのにどうしてこうも身のこなしが違うものか。背丈は杏奈のほうが若干高いし、リーチもあるが、そこまで明確な差ではない。なのに同じスタンスを踏んで、同じホールドに手を伸ばしても、天見が届かないところを杏奈は軽々と捉える。
「……全然違う」
そう、なにもかもが違う。根本から。いかにも野暮ったい自分の動きに比べて、杏奈のムーヴには角がない。なめらかで、柔らかい。静かで優しげでさえある。次のホールドを叩くように掴む私と違って、杏奈の手はほんの少し触れるだけのように動く。
当然のように登り終える。驚いたのは、自分が明確にへたっぴだという明白な認識だ。わかってはいたが、実際にこうして提示されるとなかなか凹む。というかそれを指摘されたのがイヤだ。
杏奈が帰ってくる。「どだった?」
天見は唇をむずむずさせて眉をひそめる。
携帯を突っ返して立ち上がり、チョークバッグに手を突っ込んで集中を呼び起こす。息を沈めて細く二度深呼吸、心から濁りを捨ててその課題に向き合う。プライドをいったん遠ざけ、杏奈のムーヴを意識の表層に刻みつける。
(行け――)
呼吸を胸にとどめ、腕を伸ばす。ホールドを捉えてからだを持ち上げる。
たったいま見せつけられた杏奈のムーヴどおりに、登る。激しさよりも確実性、肉体をゆっくりと動かすことを意識し、それ以外になにも考えない。なめらかに。絹か川の流れのように。力みは最小限に抑え、腕ではなく脚で登る。
自分のムーヴを忘れ、杏奈が登った姿と同じように――
「っ……ッ」
腋を締めると、肩甲骨が尖る。広背筋が作動し、いままで使いもしなかった肉体が目覚める。漫然と登るのではなく、メリハリをつけろ。核心部の下で止まるな! ムーヴはわかりきっているのだから、思考を省いてスピードを心がけろ。持久力はいらない、ふわりと、一息に跳ぶように……
右腕をめいっぱい伸ばす。届かない。
首を捻じり、膝を捻転させ、一ミリでも遠くへ、手を、意識を……
ホールドに指先が触れる。
もう少し……
ホールドを指先が捉える。
ぎりぎりと噛み合わせた歯が軋む。天見の筋肉に許されたパワーの外側にメーターが振り切る。ここまでくればもう後は気合だ。獣が獲物にそうするように、爪を突き立て、離さない。引きつけろ! 全身の神経が悲鳴を上げる。行け。なおも肉体に命令する。登れ。相手がなんだろうが喧嘩は気合だ!
「――ぃゥう、ッ!」
喉の奥から唸りを絞り上げ、
登り切る。
最後の一手を両手で掴み、そこで腕が死ぬ。壁を軽く蹴って、マットに跳び下り、膝を撓めて着地する。
ベンチで杏奈が小さく拍手している。
(……んう)
天見はむすっとして唇を一文字に結ぶ。しかし、達成感はそれほどなかった。登り切ったにもかかわらず、なんだか他人の背に乗って登ったような、納得いかない感覚が胸に渦巻いていた。
(……自分でムーヴを考えて、自分で最後までやりきらないと、だめなんだ。きっと。攻略法を教えられたって、それをトレースしてるだけじゃ……)
考えてみれば、当然のことだ。自分で試行錯誤する過程なくして、なにがクライミングだろう? からだを動かすだけで満足するようなら、わざわざこれじゃなくったっていいじゃないか。
ベンチに帰ってきて、ペットボトルからスポーツドリンクを一口。杏奈はまだいる。天見をしげしげと見つめて、
「飲み込み早いね。どだった?」
天見はまた唇をむずむずさせる。
その翌日、天見は久し振りに学校へ行く。真面目にやるつもりなどさらさらなかったが。
天見が天見の席に座っていることに、教師やクラスメイトはあからさまにびくりとする。いちいちそうした反応をするのがまったくもって鬱陶しい。全身から強烈な構うなオーラを発散させ、顎を引いて背もたれに深く体重を預け、ポケットに両手を突っ込み、教科書はもちろん開かない。全世界を睨みつけるような眼。
(……髪、染めようかな)
そのほうがわかりやすいと思う。私という女について。
腫れ物のように扱われることで、腫れ物だとようやく認識する。大半の小学生にとって、小学校は世界そのものだ。天見には教室が怖ろしく狭く感じる。こんな牢獄のような空間でなにを学べって?
あらためて授業を受けてみても苦痛にしかならない。まったくよくも何年も持ったものだ、といまさらながら感慨を覚える。あの暴力的な一件がなくても、どのみち私には合わなかったと思う。奴隷は境遇に慣れると自分の鎖を自慢し始める……
(ひねくれすぎか)
というか不登校の不良という立場がここまで板についていることが驚きだ。
休み時間、隣のクラスから校庭へ遊びに出た数人のグループが、窓の外を横切る。天見がぼんやりと見ていると、そのうちのひときわ目立つ体格の少女が、行きかけてぴたりと立ち止まり、後戻りしてくる。窓を勢いよく開けて、
「姫ちゃんいんじゃーん!」
教室に沈着していたイヤな静寂がぴしりと割れて、天見は露骨に面倒そうな顔をする。「……鵠沼さんいい加減その呼び方やめて」
「学校きてたんだ!? 珍しいね、どんな心境の変化?」
「別に……気まぐれ」
「おうおう! そっかそっか! あたしらこれから体育館でバスケやっから姫ちゃんもきなよ! 助かるわーやーちょうどメンツ足りなかったとこでさぁ!」
「呼び方――」
「おっしゃ決定っ! 急ごうぜ昼休み絶望的に時間足りねーんだから! みんなーちょい待ちー最後のひとり見っけたー!」
肩をぐいと掴まれて引っ張り出される。体格差に加えてそもそものパワーが違いすぎて抵抗もできやしない。天見はつんのめりながら溜息。
背後で教室の空気が一気に和らいだことにイライラ。
グループに合流すると、全員が全員なにか微妙な顔をする。さもあらん。ある日突然クラスメイトに馬乗りしてタコ殴りにした不登校少女は同学年ではこのうえなく有名だ。隣のクラスでは、その詳しい内部事情も伝わっていない。ただ表層に浮かんだ事実だけが一人歩きし、天見の評価を形成している。
それでもってその天見を引っ張っているのは、その事件の幕引きに天見をぶん投げた紡だった。微妙な表情の面々が顔を見合わせる。これってどういう組み合わせ?
「え、なに?」
紡が屈託のない顔で首をちょこんと傾げ、それでみんな理解を諦める。威圧感のある背丈に悪意のない仕草をされたらそれ以上は誰も突っ込めない。
体育館のハーフコート。中央をネットで区切り、もう半分ではバレーボールが始まっている。ほとんど男子で、女子は少ない。成長期の違いもあるのだろうが、紡がおおむね頭ひとつぶん大きく、とにかく目立つ。
靴底がコートを踏む、鳥の鳴き声のような特徴的な音。幾層にも重なって響く。その時期の少年少女特有の、無限のエネルギーが発散される。ポジションなどあってなきもの。ドリブルのたびに館内全体が震えるような感覚までする。叫び声が行き交う。お粗末なシュートはゴールリングに嫌われ、リバウンドするにしても予測がつかない。試合というよりはただ混沌としている。
天見はボールを持った少女に囁く。「あんまりこっちにパス回さないで」
「ええ?」
「だるいから」
天見の協調能力はもはや壊滅している。ただやってる振りをしながらコートの端から端まで走る。
しかしパスを回す側からしてみれば、天見は汗ひとつかいておらず、体力に余裕がありそうで、しかも、早い。動きにキレがある。既に相手側でプレイしている紡にひどい点差をつけられており、打開策を探して必死だ。そういやあの子このまえの持久走二位だったっけ? 体育は得意なほう? 思うや否や少女は天見にパスしている。そもそもいまなんと言われたのか、周りがやかましくて聞こえていなかった。
「……回すなっつって……」
悪態をつきかけ、顔を上げた眼前に紡。にこにこしながら腰を落とし、もう臨戦態勢に入っている。「っしゃァ姫ちゃんこいやっ!」
「……」
咄嗟に動いたのは苛立ちか。同年代の少女に対するちょっとした対抗心か。
わりとガチ気味にストリートバスケなんぞに興じている紡に、勝てると思っているわけではない、が……
フェイクや駆け引きの妙など天見にはわからない。対戦相手のいるスポーツに関しては無知に等しい。ただ見様見真似で姿勢を低くし、呼吸を胸に留め、ルートの核心部をやるときのように深い集中に心を沈ませる。そして、唐突に進入する。紡の腋の下を掻い潜るように踏み込み、ボールをコートに叩きつけ、ほとんど這いずるように素早く。ただスピードだけにものを言わせたペネトレイト。早送りの映像のように天見のからだが動く。
「よっ」
「あ」
一瞬の交錯。どこにそんな隙があったのか天見にはわからない。ただ紡の腕が無雑作に伸び、床から天見の手元に戻るボールに触れたと見えたときには、ボールはラインを割って外に出ている。
(だめか……)
ブレーキを踏み、天見は鼻を鳴らす。どこが悪かった? ムーヴが違う? 右手で取るべきホールドを左手で取ってしまったせい? スタンス? 重心の移動がぎこちなかった?
「姫川さんドンマイ! 次いこう次!」
コートの動きは目まぐるしい。パスした少女に後ろからはたかれ、天見が眼を白黒させているあいだに、もうボールはコートの内側に戻っている。スティール。紡にボールが渡り、カウンター。走る彼女に誰も追いつけない。天見の意識がようやくディフェンスに向いたときには、紡のレイアップ・シュートがゴールネットを潜っている。
なにもかもが早い。分析と反省を挟む間もない。
「オフェンス一本! 速攻っ!」
そのテンポにどうにも馴染めないのだ。自分のペースを乱され、天見は唇をむずむずさせて不機嫌になる。
(やっぱりチームプレイは苦手だ)
仕方なく、走っている。走るだけならいくらでもできるけれど。
「美奈子が言ってくれて誤解は解けたが、杏奈の不機嫌が治らない」
「はあ?」
「こういうとき父親は駄目だな。金を稼ぐばかりで肝心のことができやしない。必死で話しかけようとしてるんだが話題が続かん。まったく情けないったらありゃしない……大学受験にしたって、おれはなんのアドヴァイスも送れないから……高卒だしな……」
空はビールのジョッキを呷りながら篠原の愚痴を聞いている。安価なばかりが売りの居酒屋。事情を耳にして、空は笑ってしまった。あたしが篠原の不倫相手?
「まあ、ナーヴァスになってるんじゃないの。知らんけど。高二のときなんて、あたしは登ってたことしか覚えてないし」
篠原は鼻を鳴らす。「おれたちはそうだろうが、杏奈は違うんだ。しっかり高校生やってると思うよ。おれたちなんかより、ずっと健全で、いい子なんだ。そりゃストレスだって溜まるよな」
空は白髪を弄りながら言う。「あたしだってストレスくらいあるさ」
「杏奈がおまえみたいに白髪だらけになったらそれこそ悪夢だ。そのまえになんとかしてやるのが、おれの役目だよな。でもストレス発散の手段なんて山以外に思いつきもしない」
「一緒に登ってやったら?」
「余計に悪化するだろ、たぶん。それくらいおれにだってわかるよ」
アルコールが血肉を巡り、篠原は弱気モードに入ってしまっていた。いまにも頭を抱えて突っ伏してしまいそうだ。父親は大変だなと、空は他人ごとのように思う。
まあ、難しい年頃なんだろう。難しくない年頃というのが想像もつかないが。小学六年生の天見のことを考えると、どっちもどっちだと思う。むしろ表に表れている問題で言えば、天見のほうがずっと面倒だが。苦悩は優劣ではない。
「高校生か。散々な思いして受験して入学して、で、二年の終わり頃からもう大学受験が視野に入るんだろ。まったく思春期だってのに慌しいことだね、政治屋はいったいなにをやってるの」
「日本社会への批評はひとまず置いといてだな、とにかく杏奈の不機嫌が止まらないんだ。家だけじゃなく、高校でもいろいろあるんだろう。おれに悩みなんて話しちゃくれないが。なんとかしてやりたいと思っても力になれない。それでおまえに助けて欲しいんだが」
「はあ?」
「一緒に登ってやってくれよ。杏奈と」篠原は満身創痍な様子で言う。「あいつにはザイルパートナーがいないんだ。そりゃ小さい頃はおれと登ってもいたけど、いまさらそういうのって、一緒に風呂入るようなもんだ。おまえは一応女だし、ずっと気安く付き合えると思うから……」
空は困ったように頭の後ろを掻く。「登るくらいならいくらでもできるけどさ」しかし、登るしかできないのが櫛灘空という女だ。「ザイル繋げば相手のことなんでもわかるなんて、古い山屋だって思いやしないよ。実際、いまさ、諸々の事情でよく一緒に登ってる女の子いるけど、その子の抱えてる問題、いまだに一個も解決してない。なんだか余計に悪くなってるような気もするし」
「どこも登らないよりマシだろ」
「だからそう思うのは山屋だけだって。女の子だったら女の子らしく、恋でもすりゃ変わるんじゃないの」
「杏奈は女子高だぞ。どこに出会いがあるっていうんだ?」
「その子ストレートなん?」
「……? なにが? カーブとかスライダーとかじゃないとは思うが」
「あー。いやなんでもない」
空はビールを一口に飲み干して溜息。まったく最近は厄介ごとばっか転がり込んでくるな、とひとりごちて箸に手を伸ばした。解決の糸口が見えないときはヤケ食いヤケ飲みに限る。あたしにできる善行なんて、生まれてこのかたこれっぽっちもないんだけど。
PR
と思ったら氏の書く百合は大抵殺し合いやら敵対から始まってたでござるの巻。