オリジナルss。の……登山。
とりあえずここで一段落。落ちてないですが。ふたつの意味で(キリッ
再開は次の展開がまとまってからにしようと思います。ネタを探さねば。
さーて年も明けたことだしバイト探すぞォーッ
ニートじゃないです! フリーターです! ニートなんてやったらガチで餓死する(ry
とりあえずここで一段落。落ちてないですが。ふたつの意味で(キリッ
再開は次の展開がまとまってからにしようと思います。ネタを探さねば。
さーて年も明けたことだしバイト探すぞォーッ
ニートじゃないです! フリーターです! ニートなんてやったらガチで餓死する(ry
「芦田さんは登らないんですか」
「あのな、姫川さんな、おれはザイル使った登山はもうしないって決めてんの。そんでもって櫛灘とは絶対にもう二度と組まん。新婚早々女房を未亡人にするわけにはいかんのよ」
「こいつのヨメさん超美人だよ」と空。「そりゃもう腰抜かしておったまげるくらい。おまけにちょっと古風で清楚なお淑やか系お嬢さんときた。眼鏡かけて図書館でお勉強してる大人しい学級委員長って感じの。それで運気使い果たしてるから近々死ぬよこいつたぶん」
「おいやめろクソが」
天見は首を傾げる。「……こんなとこにいていいんですか?」
痛いところを衝かれた芦田は歯をぎりぎり言わせて空を睨む。空は平然としている。
言いながらも準備を終えている。先ほどと同じ態勢。空は壁の真ん中あたりを示して言う。「全部で五十メートルだから、登ろうと思えば1ピッチでいける。でも今回は練習って意味合いが強いから、あそこでいっぺん区切るよ。
つるっとしたところにピトンが打ってあるのが見える? 右はクラックになってるし左にもルートあるけど、できるだけあそこを登って。スラブ(一枚岩)だから、さっきと違ってホールドは細かいしはっきりした足の置き場もないように思えるけれど、実はこの程度の傾斜だったら充分いけちまうものなんだ。自分のからだがどういう感じで動け、登れるのか。あんたが意識しなきゃならないのはそこ」
「はい」
「あんたはセカンドだ。墜ちても大したことにはならないから、思いっきりやってみな」
「はい」
下部はほんとうに大したことがない。先ほどのルートよりも簡単でさえあり、階段状のバンドになっている。登山靴でもいけるだろうと思う。ただ中間支点がほとんどなく、少しひやりとなるランナウト。リードだったら……と、天見は眼を細める。少なくとも一年はリードなどやらせてもらえないとはいえ。
空のところまで登る。ピトンとハーケンが複数打ってあり、ここが本来の始点だとわかる。空の引き上げたザイルが、彼女のセルフビレイに折り畳まれて乗っており、天見がセルフビレイを取ると、空はそこにザイルを移動させる。
「ギアちょうだい。確保は1ピッチ目と同じだよ。足場は悪いけどね」
「はい」
「芦田が下から見てる。わからないことあったら叫んで。ここからじゃ終了点が見えないから、あんたはザイルの流れに合わせて繰り出すわけだけど、どうせあたしは落ちないから少し出し気味で。下から引っ張られるほうが辛い」
天見はちらと下を見る。芦田が小さい。地面が遠い。
空は手をチョークバッグに突っ込む。白い粉が舞う。「登るよ」
そのとき、強い風が吹く。こじんまりとした一枚岩の壁を駆け抜け、天見は思わず眼を閉じる。
再び開けたとき、空の脚が自分の目線より上にある。慌ててザイルを繰り出す。ふわりと――滑らかな速度で伸びた空の腕がピトンを撫で、クイックドローをセットし、ザイルを通す。カラビナのゲートが閉じる、カチリという音が乾いて聞こえる。そのときにはもう、空の手は次のホールドに触れている。
改めて見ればなんと優雅な動きだろう……
まるであらかじめ自分の取るべき行動がわかっているような印象がある。何度となくリハーサルを繰り返したステップを踊るかのように迷いがない。持ち上がる脚は確実に岩面を捉え、蹴るようにではなく、撫でるかのように足がかりを踏む。歩くよりも優しい。足音などまったく聞こえない。
当たりまえに登るのだ。見、確認する、その目線の動きさえ柔い。下から見ている分にはどうしてそんな手がかりを掴むのか理解できない。どうしてそんな小さな部分で身を支えていられるのかと。
そんなに簡単なのだろうか。
攀じ登る動作の、軽やかに見えること。容易に見えること。いっとき、なにをしているのかさえ忘れかける。ほんとうにザイルが必要? 危険行為?
斜度の緩い部分に乗っ越し、天見の位置から空が見えなくなる。ザイルだけが変わらず流れており、天見は手元を止めないようにだけ注意する。手のひらをザイルが滑ってゆく……
ザイルが止まる。
(終わった、かな)
支点をつくり、私を確保する準備をしているのだろう。
すぐに上方から声が落ちてくる。「ビレイ解除!」
ルベルソからザイルを外し、返答する。「ビレイ解除! ザイルアップ!」
ダブルロープが引き上げられ、すぐに余裕がなくなる。ハーネスがぐいぐいと引っ張られる。
「ザイル一杯!」
「――ビレイOK!」
「登ります!」
支点をつくるカラビナとスリングを回収し、ギアラックにかける。
さあ、後は登るだけだ。
空が先ほど使ったホールドに触れてみる。彼女が登る姿を見ていたし、チョークの白い痕が少し残っているから、なんとなくわかる。が、
(小さい――)
思った以上に細かい。
しかも滑る。チョークバッグに手を突っ込み、改めて触れてみても、掴むことなんてできやしない。
左手を壁に這わせて、別に頼れるホールドがないか探る。つるつるとした感触だけがあり、どれにどう触れればいいのか? 先ほど芦田に首根っこを掴まれたときのように、からだを離し、視野を広げてみる……
空はどうやって登っていた? だってこんなものを掴んだところで、身を支えられるわけがない。少なくとも四十キロはあるからだを、体感的には垂直の壁で……
(足)
フラットソールの爪先で壁を探る。
壁が親切に階段のようになっているわけがない。ちょっとした摩擦……出っ張り……歩くことを阻害されるような靴……
エッジをぐいと壁に押しつけ、試してみる。これで登るのだろうか? 簡単に墜ちるんじゃないか?
三点支持。
右手と左手を頼りにならないホールドに添え、さらに足先に力を篭め、重心を試す。腰を移動させる。右に。左に。
空は簡単そうに登っていた。腕力なんかこれっぽっちも使っていないように。芦田はなんと言っていたっけ? 空が単純な腕力で芦田より強かったことなんてない……
ハーネスから上に伸びるザイルがぐいぐいと引き上げられている。
(……いってみる……?)
地面が遠い。
腹の下がきゅっと引き攣るような、直接的な恐怖。この角度。ザイルがなければ真っ直ぐに墜ちていけるだろう。
息を吐く……吐く……吐く……
両足で壁を……摩擦を効かせてからだを持ち上げ、右手のホールドはそのままに、左手を伸ばす……伸ばす……探る……ホールドらしき取っ掛かりに……触れ……重心を……変え……
(よし……)
クイックドローを回収する。
それを掴めば、壁なんか関係なくからだを持ち上げられるのだろうが、それはフェアではない。ピトンやハーケンの穴に指を突っ込むのも違う。もしリードだったら? それで墜ちれば指がちぎれる。それ以前に、それは壁を無視する行いだ。
カラビナがかちりと音を立て、ゲートが閉じる。
壁に手のひらを這わせる。ホールドはどこ? 片手と両足で身を支えているあいだ、必死で眼を走らせる。それらしきところに触れても、それを頼りにできるようには思えない。さらに伸ばす。届かない。肩や腰を入れ、顔を背けるようにしてやっと届く。ああ、これ。でも足が遠い。とん、とん、と壁を蹴り、次のフットホールドに不器用に移動させる。
撫でるような足使いだった空とはひどい違いだ。あんなに簡単そうに見えたのに、実際にやってみるとこんなに際どいなんて。
(次はどれ?)
適当に掴んでも登れないことは明白だ。だいたい掴める場所なんて限られているし、このつるつるしたスラブの手触りといったら!
自分の肉体的な小ささを恨めしく思う。同年代ではそれなりなほうだが、紡なんかに比べればもちろん小さい。腕も脚も短い。
空と同じくらいなのに……
指の力が違えば簡単に登れるのだろうか。いや、空を見ている限り、力を使っているようには見えなかった。腕の筋肉が震えているようには思えなかったし、あらゆる動作がなんでもないかのように見えた。いかにも簡単なルートを登っているかのように。
力じゃないのか? あんなに滑らかだったのはどうして?
(バランス……)
だったら――だったら?
からだがいちばん安定する重心を探る。探す。ぎりぎりと腕が引き攣るように痛む。これは違う。次のホールドに触れる。足は? 足はどこに!?
正解が限定されているのがわかる。私の腕力じゃこの姿勢じゃ墜ちる! 右足……左足……逆!? 右足が触れている足がかりに左足を置き、右足を外へ! ぶれ、振り子のように揺れかかるからだを、左足を伸ばして耐える。
楽になる。これで? でも、いつまでも同じホールドで支えているわけにはいかない! 次のホールドへ――この安定した姿勢を手放す!――
(大きい)
ガバホールドがある。思いっきり掴めて、安定するような。いっときの安心が訪れる。そこを頼りに、次のクイックドローを回収する。
が、その安定さえいっときのものだ。次へいかなければならない。よりいっそう細かく、頼りないホールドに。
三点支持。
両手、両足、どれかひとつでも失えば簡単に墜ちてしまいそうな感じがする。こんなに心細いものなのか……
自分の息が荒く聞こえる。
指先に汗が滲んでくる。ちょっと、いまはやめて。滑る。滑る、から。生理的な反応のなんと怖ろしいことか。
チョークバッグに指を。多少マシになる。ぎゅ、ぎゅ、とチョークボールを掴み、出した手のひらに息を吹きかけ、余計な粉を飛ばす。そうして次のホールドに伸ばす。また。またこんな細かい手がかりを。
足……
膝のあたりにはかけられそうな場所がない。ハーケンがあるが、あれに足をかけるのは違う。そんなことをしたら、どんなルートでもピトンを打ちながらだったら登れる道理になってしまう。それは違うと思う。登ることだけが目的ならあらゆる道具を使って登ればいい。そうしない理由。いま使っているのは、最低限からだを確保する道具だけなのだ、から――
(……フリークライミング、って――)
ちっとも『フリー』じゃないな、と思う。
自由登攀。使っているのは最低限の道具だけだ。できる限り自分の肉体だけを頼りに登っている。
自由の意味。自分だけを由とすること。人工手段の排除。それはなんでも許されるということではない。
潔いことだな、と思う。結構好きかもしれない、そういうのは。
空の部屋で見た山の雑誌に、ピトンやアブミを使った人工登攀のルートを、フリー化して登ったクライマーの記事があったっけ。そのでかでかとした見出しが、素人心に随分と格好良く思えたものだ。補助手段の徹底的な排除……ひたすらにストイックな条件での挑戦――
『パーフェクト・オール・フリー』……
「――っ、く――は、ァ……」
随分とマゾヒスティックなことをしてるな。でも、なかなか爽快だ。
真下を見ればばっさりと切れ落ちている。ほとんど垂直にしか見えない。こんなところを私が登っているなんて。
芦田が眼を細めてこちらを見上げている。その姿のなんと小さいこと。たったの2ピッチでこんなに――もっと長いルートだったら、どんなに怖ろしいことなんだろう。
周りが広い。
壁の真ん中なんだからあたりまえだ。背中がすかすかにだだっ広い。
私は壁にいる。
壁にしがみついて。
壁に。
午後にも二本のルートを登った。
陽が傾き、火のように色づいている。林道は影に埋もれ、里山の低い稜線だけが輝いている。季節が季節だから、そうなるともうキンとして寒い。
カローラの後部座席に座ると、天見はすぐに頭を傾けた。ぼんやりとして、視界が霞む。うとうとと首が据わらずに、考えるより先に眼を瞑っていた。
簡易トイレから帰ってきて、芦田は眼を細めてバックミラーを見やった。イグニッション・キーを回す指がためらう。変な娘だな、と思う。子供か。経済的な理由からいまはそんな余裕はないが、可能性を考えるだけである種の感慨が浮かぶ。ハンドルに腕を預け、家族のことを思う。
空はドアを開ける。「悪い、遅くなった。……ん」
「静かにしとけ。疲れたんだろうよ」
眠る天見に眼をやり、少し唇を綻ばせる。ゆっくりとドアを閉めて、助手席に身を滑り込ませる。
「あんたもさっさと、真衣に子供産ませなよ。家族そろって登れれば、そりゃ楽しいだろうに」
「うるせえ」
「年齢的に――あたしに天見くらいの子供がいてもおかしくないんだろうけど、全然想像できないね」
「そうだな」
カローラが目覚める。深い吐息のようにエンジンが震え、ギアが入れ替わる。
静かな出発。帰還。既に暗くなりかけており、ヘッドライトが舗装路を照らす。眠る天見を起こさないよう、芦田は滑らせるようにハンドルを回す。急停止も急発進もなし。
「子供を持つと思うだけで怖ぇよ」と芦田は言う。
「そう?」
「自分がどうだったかって思い出すとな……。ほんとうはこういうのだってトラウマだ。おれの親父はおれを助手席に乗せて、車を暴走させるような男だった。『教育』のために」
「……ふぅん」
「それでもいつの間にかおれが悪いみたくなってるんだから巧いもんだ。反抗期のキレやすい子供……これだからゆとりは……自分もああいう親になるんだろうって思うと真剣に怖い。それがなによりも怖い」
際どいところで信号が黄色に変わり、芦田はブレーキを踏む。反射的にバックミラーを見やる。天見の首が傾く、が、目覚める気配はない。芦田の眉間にはずっと深い皺が刻まれている。そのほんの一瞬にだけ緩む。
「あたしは子供とは無縁だね。そういう心配をしなくていいってだけ楽なのかな」
「楽……楽、ね。気がつくと楽じゃないほう選んでるがな。てめーの子供じゃなくてもいままさに教育みたいなことしてるじゃねえか」
「天見はなんか子供って感じがしない……」
帰りの電車はひとりだった。天見は最後部の車両に乗り、最後尾のドアの横に背を預けた。座席はがらがらだったが、座らなかった。
吊り広告が政治とセックスについて警鐘を鳴らし、有名人のあらゆるゴシップを声高にまくしたてていた。耳障りな金切り声を聞いた気がして、天見はぼんやりと眼を細めた。『これから国民がどんな負債を背負うことになるのか!』。見出しの横で、見たこともない国民的アイドルとやらが、その身を削るように健気にネタを提供していた。広告……広告……広告。全人類が滅びても全自動広告生成装置は永遠に機能し続けるのだろう、きっと。現実もネットも喰い尽して、SNSの人畜無害なボットのように。眠気混じりにそんな妄想に取り憑かれ、天見は首を振った。疲れていると思った。
思考を洗脳され、無意識を誘導されているように感じた。なにもかもが厭で、うんざりするようだった。
手のひらが焼けるように痛い。岩に触れすぎて皮膚が削れたようだ。いまなら……気持ちがわかるかもしれない、と思う。自分を傷つけて悦びたがる精神について。
いや、所詮はこんなものだ、と思う。だんだんこじらせてしまったのだろう、私は。くだらないと断じられる子供の病気だ……
もう一度登りたい。登っているあいだの私はただ必死で、情けないくらい弱くて、怖がっていて、ちっぽけで、けれど正直だ。少なくともそれだけでいられる。登るだけのチビのままで。
そのあいだだけ……謙虚な気持ちでいられる。慎ましい気持ちのままで……
登りたい。
登りたい……
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コメント
無題
オレモシゴトガンバルヨ…
posted by NONAME at 2013/01/04 07:45 [ コメントを修正する ]